第6話 思い出の女

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「あら、二人で何か密談ですか? 食べ物を土産に私も混ぜてくれませんか?」  藤瀬チームのアシスタントの市原沙也が、食べ物を盛った皿を持って裕二たちのテーブルにやってきた。沙也は入社三年目で、渡瀬チームの間宮や戸田と同期入社だ。新設チーム設立に当たって、藤瀬が渡瀬に頼んでもらい受けたという。  細かいところにもよく気がつき、丁寧な仕事をするので、信頼して仕事を任すことができる。来年はアカウントプランナーに昇格することは間違いないだろう。 「もちろんです。おじさん二人で爺臭い会話に成りかけていたので大歓迎ですよ」  裕二は相好を崩して沙也を迎える。藤瀬も満面に笑みを浮かべた。 「新庄さんは大手からの転職でしょう。うちは世間では変わった会社だと思われてるみたいですが、もう慣れましたか?」 「ハハ、確かに世間的には変わった会社ですよね。でも力のある者が存分に働けるしくみだし、何よりもアイディアも出さずに、昔の名前で調整だけしてる者は職を失う厳しさがいい。まだ慣れてはないけど、この会社は好きですよ」  裕二の言葉に沙也は嬉しそうにほほ笑んだ。 「新庄さんは本当にすごいアイディアマンですよね。今回のプロジェクトでも斬新な企画が多くて、私もアシスタントやるなら新庄さんのような人の下がいいなぁ」  プロフィールで付け加えると沙也はかなりの美人だ。背も高くて女性誌を彩るモデルのような美しさだ。こんな美人に褒められるなんて、それだけでこの会社に入った価値があると裕二は思った。 「頼むからそんな恐ろしいこと言わないでよ。今沙也にいなくなられたら、うちのチームは男性社員が意気消沈して、やる気が出なくなっちゃうよ」  藤瀬が冗談交じりに沙也を持ち上げる。
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