第一話 過去が蘇るとき

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「君と話す時間は、後五分あるから、担当する仕事について話しておきたい。いいかな」 「はい」  最大の関心事について、満足のいく資料をもらったので、気が楽になって返事も軽やかに出てくる。 「最初は何も分からないだろうから、間宮さんの指示に従って仕事を進めて欲しい。間宮さんがもうアシスタントとして仕事ができると判断したら、担当する案件を決める。一応そのレベルに、長くても三週間で達して欲しい。アシスタントにかかる責任は軽いけど、働き次第によってはチームの効率が大きく変わる。来年の契約にも影響するから、がんばって働いてください。それから」  渡瀬は、そこで言葉を切って、真唯の目を見た。心の中を全て見通されるような、少し怖い視線だった。 「まだ、将来のキャリアなんて何も思い浮かばないと思うけど、できるだけ先輩たちの仕事内容をしっかり見て、自分なりの気づきを持って欲しい。それをするかしないかで、君の将来は大きく変わるし、今年の成果も変わって来る。仕事を依頼した人が言葉に出さない期待を、ちゃんとキャッチできるかは、仕事に取り組む日常的な姿勢次第だと、私は思っています」  真唯は渡瀬の言葉が、半分分かって半分分からなかった。特に自分なりの気づきがどういうことを指しているのか、さっぱり分からない。 「分かりました。自分なりに考えてやっていきます」  自分にしてはいい返事ができた。 「いいでしょう。ではこれからよろしくお願いします」  渡瀬の話が終わると、間宮が渡瀬チームのオフィスエリアに案内してくれた。  そこにはいろんな服装の人がいた。お洒落なスーツを着こなしている人がいれば、ジーンズにトレーナーというカジュアルな人もいる。中には部屋着でそのまま来たのではと思わせるジャージ姿の人もいた。  代理店という言葉の響きからハイセンスを想像していた真唯は、あまりのギャップの大きさに面食らってしまった。 「あの、すごいバラバラなんですね」 「えっ」  間宮は最初、真唯が何を指してバラバラと言ったのか分からずにいたが、真唯の視線がジャージ姿の男に釘付けに成ってるのを見て、ようやく言葉の意味を把握した。
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