序 その端

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序 その端

2021年 各地で、映画『2001年宇宙の旅』で登場したモノリスの様な物体が、突然、出現したというニュースが流れた事は、皆の記憶にも、まだ新しい事だろう アメリカ、イギリス、ルーマニア、ポーランド、ベルギー、スペイン、ドイツ、アフリカ… こんな事が起こると、一部の人間の中には、それを直ぐに「宇宙人の仕業」だと決めつけて騒ぎ出す者達がいるのは、太古から変わず繰り返されている人の所業である 人は一体、いつからこの『人智を超えた存在』を意識する様になっていたのだろう 数万年前の洞窟壁画にも、人類が普段目にしている様な動物達の他に、どう見ても、人で在らざる存在を描いた物が残されて居る 各地の神話の中にも、我々人類は、かつて、遠い地から遥々やって来た『偉大なる者』達に、叡智や、文明、技術等を授けられ、そして彼等は去って行ったなどという伝承は数多く残されている もしかすると、人類は、その遺伝子の記憶の中にまで、ヒトを超えた知的生命体の存在を認識しているのかも知れない 世間には、あまり大きな報道として騒がれる事は、無かったのだが、2021年のある日、実は、世界各国の中枢部を大きく揺るがす事件が起こっていた それは、地球の数キロ上空のある一部において 各国の人工衛星が、悉く連絡が途絶えるといった現象が起きていたのだ 当初は、各国が、それぞれに何かの故障、又は、トラブルによってその通信が絶たれたのだと考え、調査を行ったが、その後、その本体その物の追跡が出来ない事が分かってきた 通信衛星、気象衛星、監視衛星、そして機密の軍事衛星といったあらゆる一部の衛星が、その存在を確認出来なくなったのだった 何か、宇宙空間上現象による影響かとも考え、各国は、あらゆるデータを拾ったが、それを示す様な現象は確認出来ず、また、それらが、何かの影響を受けて墜落したという痕跡すら確認出来なかった、事実上、何の表現の狂いもなく、忽然と『消滅』したのだった その中には、各国の軍事衛星も含まれていたものだから、その当事国の首脳部は、敵対する国家の新兵器による攻撃、又は実験なのではないかと、警戒したのだった そして、ある一部の、政府や、情報機関、研究者の調査によって後に分かった事は、その衛星が消滅した地点は、地球上の、ある時間の、ある一定の範囲を通過した物だけが消滅をした事が分かってきた だが、その原因までは、誰もが特定出来ず、高エネルギーの宇宙線に当たったのだとか、ミニブラックホールに吸収されたのだとか、あらゆる推測がなされたが、それを示す根拠は、何一つ発見されなかったので、その全ての国が、その情報は『機密』とした上で、その原因については『原因不明』として処理されたのだった その後、その情報は、各国政府の統制により、メディアで大々的取り上げられる事は、無かったが、一部の物好きなネット内の住民によって面白おかしく、様々な推測が加えられて、取り上げられる程度の物となっていった 「おい、聞いたか?アメリカを初めとする、各国の衛星が、地球上のある地点で、突如として消滅したらしいぞ」 同僚の、エマーソンが、手にコーヒーのカップを持ちながら、アダムスに声をかけた 「ああ、その中に、実は最新の軍事監視衛星があった物だから、政府は、その消息を躍起になって探している、ってやつだろ、今、丁度読んでるよ」 と言って、アダムスは、その同僚に、自分のデスクの上にある、タブレットを指さした その画面は、大手検索サイトのトップページの時事ニュースを扱う画面だった 「多分、宇宙線か、太陽風の影響なんじゃないのか?まぁ、中には、ある国の、新兵器が、実験的に使われたんじゃないかという奴もいるらしいけどな」 アダムスは、椅子の背もたれに大きく寄りかかって伸びをした 「他には、各国が現在行っている、量子実験による影響で、ミニブラックホールが出来たんじゃないかって説もあるらしいぜ」 「まあ、全部憶測の域を出ないけどな、真実は、我々には、分からん、さ」 アダムスは、椅子の背もたれに寄りかかったまま、足で操作し、その椅子を体ごとクルクルと回しながら、そう言った 「じゃあ、アダム、この記事は、どう考える?」 そう言ってエマーソンは、自分のタブレットの画面を開いて、アダムスに突きつけた その画面には 『宇宙人からのメッセージか?各地で、[2001年宇宙の旅]のモノリスが出現!』 とあった 「馬鹿らしい、それこそ誰かの悪戯だろ、 宇宙から飛来した物に、おいそれと、我々人類が触れられる訳が無い、もし、本物であれば、映画でもやっていただろ、それなら奇怪な音を発したり、それに人が取り込まれたりしちゃうだろうな」 「そうか、そんな物なのかな、ちぇ、夢が無いなぁ」 エマーソンが、そう言って突きつけたタブレットを自分の方に戻すと、カップのコーヒーをグイッと飲んだ 「おいおい、エマーソン、それは研究者らしからぬ発言だな、研究者なら、その程度の推測位は、出来ないとな」 「なんだよ、お前は、宇宙の知的生命体の存在を信じてないのか?」 エマーソンは、飲んでいたコーヒーカップを持っている手の方を、同僚に突きつけながらそう言った 「信じてるさ、だがな、もし、存在していて、この地球にやって来る事があったとしても、アプローチの仕方が、そんな常識的な手段では無いだろう、そう言っているのさ、そもそも、このちっぽけな、奴らから見れば、なんて事は無いこの地球に、わざわざ遥か何十光年、ひょっとすると、何百、何千光年も、かけて来る理由が俺には、有るとは思えないね」 アダムスは、そう言って、ようやく伸びをしながら、椅子をクルクル回すのをやめた 「だがな、この、衛星消滅には、何かしらの理由と、原因がある事だけは確実だ、それが、自然現象、何者かによる兵器の使用であってもだ、実は、コレは、大きな事だぜ 今、現在では、それが何によるのかは、さっぱり検討もつかないけどな」 アダムスは、そのタブレットの記事を眺めながらそう言った アダムスは、NASAに所属する研究員だった 専門は、宇宙物理学だ 普段は、宇宙線の人体への影響を研究していた アメリカの宇宙探査の進展は、年々削られていく予算の中で、どんどんと、その研究は、デスクワークに限定されつつあり、今では、他国にその研究分野の新発見の栄光は、奪われていくばかりで、今では、この同僚のエマーソンを例に、アダムス自身も、計算機を前に、日々、情報を入力してその数値を計測するなどの計算位しかその研究手段は限定されていた 今では、各国の量子研究者の方が、莫大な予算を貰えているといった悲しい現実の状態であった 元々、アダムスは、子供の頃から宇宙飛行士を夢見ていた (いつかは、宇宙飛行士になって、宇宙遊泳をしてみたい、そして、丸く青い地球の姿を、この遥か上空の宇宙から眺めてみたい) 多くの子供達が夢に描いていた様に、アダムスも、そんな事を夢見て育った人間の一人立った そんなアダムスは、高校でも、トップの優秀な成績を維持し、大学は、MITに入学する事が出来た、其処で物理学を専攻し、大学院を卒業した時に、かつてより念願であったNASAの研究員募集に応募し、見事、NASAに就職する事が出来た、しかし、時は既に、スペースシャトルチャレンジャー号の爆発事故を契機に、アメリカの宇宙開発の意欲は次第に失われつつあり、念願かなってNASAに入れたものの、アダムスの日々の研究と言えば、先述した通りの、コンピュータによる計算業務ばかりといった状態であった そして今、こうやって同僚のエマーソンと、休憩時間に、馬鹿な宇宙人論争などを交わしているといった状態であった エマーソンと、そんな馬鹿らしい話を終わらせ、アダムスは、また、コンピュータに入れる計算数値を入れようとしていた時、バタバタと、足音がして、バーンと入り口の扉が開き、同僚である、ニームソンが、部屋に入って来た 「おいっ!聞いたか? アフリカのタンザニアで、未知の球体が発見されたってやつ⁈」 「ああ、ネットのニュースなどで、拡散されているな、それも、例のモノリスと同じ類いなんじゃ無いのか?そもそも、今時にしては、その写真も一枚も無いなんて、よっぽどガセの類いなんじゃ無いのか?」 「いや、それがさ、写真が撮れないらしいんだよ、なんでも、カメラに写そうとすると、その悉くが発光してしまうらしい」 「ふーん、そうすると、何か強いエネルギー、例えば、放射線が何かの影響があるって事なのかな?それで?」 「その解明にNASAが名乗りを上げたらしいぞ!なんでも、アメリカ政府と、民間の企業が出資して、世界各国に先手を打ってその研究を独占しようって腹づもりらしい 今、研究員を厳選しているって、もっぱらの噂だ」 アダムスと、エマーソンは、その話にガバッと食いついた 「本当か?それは!その厳選を任されている担当者は誰だ?」 「スティーブン博士だ」 「本当か⁈」 スティーブン博士は、アダムスやエマーソンの直接の上司で恩師でもあった 「おい!俺たちにも機会が巡ってくるかもしれないぞ!」 エマーソンは、アダムスにそう興奮気味に話すのであった
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