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生まれておめでとう。
お前は選ばれた。お前は生まれた。
お前は世界を見て旅をし、全てを知るために、存在する。
目覚めよ、立ち上がれよ、我の手足よ!
今こそ、この世界を知り尽くすのだ。
お前は選ばれた。お前は生まれた。
お前は世界を見て旅をし、全てを知るために、存在する。
お前は依り代。我の使いである。
さあ、目覚めの時が来た。
私の代わりに人々を見よ。
私の代わりに大地を歩け。
私の代わりに知識を得よ。
私の代わりにこの世界を生きるのだ!
***
「エリーゼ! 早く起きなさい! 何時だと思ってるの!」
いつのまにか、夢の声が母の声に代わっていた。
このところ、見知らぬ誰かの声で目覚めることが多い。
その声によれば、私が依り代に選ばれたらしい。
夢は何日も続いており、呼びかけの声も大きくなっている。
依り代は神様に仕える尊い存在だ。
人間と接することができない神様の代理として、存在している。
無言でベッドから這い出て、床に座る。
この声について、話したことは一度もない。
誰かに話してしまえば、城に連れて行かれてしまう。
依り代は城の奥にいて、国の偉い人々に未来を教えているらしい。
未来を教えて、これからの政治に活かす。そういうものらしい。
とにかく、厳重に管理されるのだ。
鳥かごで飼われているカナリアと同じように、手厚い保護という名の監禁を受ける。
今よりずっと豊かな生活を送れるのはまちがいないだろう。
王族よりも丁寧に扱われ、この国を操れる力を持つのだ。
依り代が未来を予言し、その通りに国は動く。
どんな未来が来ようとも、その言葉は絶対だ。
今も生きているのだろうか。
依り代になった者は不老不死となり、国が滅ぶまで城から離れることもできないと聞いた。
何百年も生きており、国のために生きている。
依代の物語を聞くたびに、エリーゼは誰よりも怖がっていた。
ずっと城の中に閉じ込められ、未来を見続ける。
それがどれだけ異常なことか、幼い彼女でも十分に理解できた。
だから、彼女は声を無視し続けている。
決して豊かとはいえないが、その中に楽しさはある。
友人と話すこと、新しいことを知ること、街道を走り回ること。
それらすべてが奪われてしまうのだ。
自由でいられなくなることが怖い。
今の生活を失いたくなければ、黙っているしかない。
「エリーゼ、どうしたの?」
扉がノックされる。
いつまで経っても来ない自分を呼びに来たのだろう。
「待って、今行く~」
できる限り、のんびりとした口調で返す。
これでいい。依り代に選ばれたなんて、言えるわけがない。
今の生活が壊れなければ、それでいい。
彼女は平和な世界を誰よりも望んでいた。
変化を嫌っていた。
未来を見る力など必要ない。
そんなものがなくても今は十分楽しい。
だから、依り代になりたくない。
死ぬのかどうかも分からない存在になんて、なりたくない。
彼女は目覚めるたびに強く願っていた。
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