gr8 story

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道を行く人々は彼女が依り代に選ばれたことなんて、知るはずもない。 教室の扉を開けた瞬間、視線が彼女に集まった。 クラスメイトが机を囲んで、何やら話していた。 「あ、エリーゼ。預言書持ってるよな?」 ひとりが預言書を机から取り出した。 この国の未来を示していているが、何の効力も持たない。 依り代が読み上げて初めて効果を持つ。 預言書は一人一冊必ず持たされ、学校でも声に出して読んでいる。 毎日繰り返しているからか、内容は大体把握している。 「内容が変わってるから、確認しとけって先生が言ってたんだけどさ」 「エリーゼも持ってるよね? ここの部分なんだけど、何があったか覚えてる?」 変更が出た個所を指さした。 ページの内容が抜け落ちて、物語がつぎはぎになっている。 確か、依り代が伝説の存在になるまでの経緯が書かれていたはずだ。 神の使いとして政治家たちの前に現れ、この国に起きる大災害を予言した。 依り代の言葉の通りに対策を立て、被害を最小限に抑えることができた。 それ以来、この国で依り代を通して神の言葉を聞くようになった。 神の言葉を聞けるのは城にいる神官たちだけだ。 エリーゼが毎朝のように聞いている声を彼らは知っているのだろうか。 依り代が新しく選ばれたから、古い記述が必要なくなった。 だから、預言書の内容を書き換えたのだろうか。 だから、彼らは預言書の内容を覚えていないのだろうか。 毎日触れているはずなのに、誰も知らない。 彼女の背筋に冷たいものが走った。 「依り代のページがないってことは、死んだってことか?」 「でも、僕たちには関係ないよね?」 「だよなー。勝手に騒いでるだけなんじゃねえの?」 予想以上に冷めた反応だ。なぜかほっとしている自分がいる。 よく考えてみれば、あの声も一方的に騒いでいるだけだ。 無視しても構わないはずだ。 「どうしたの? 具合悪い?」 「何でもない、ちょっと眠れなかっただけ」 誰にも気づかれてはならない。 預言書の内容が変わったのは、エリーゼが依り代に選ばれたからだ。 *** なぜ、我が呼び声に応えない? お前は選ばれた。 依り代として、神の使いとして、選ばれた。 これほど光栄なことはないというのに。 その役目をなぜ引き受けない。 役目を拒めば不幸が訪れる。 地獄の底へ落ちることになるだろう。 *** エリーゼは顔を上げて、周囲を見渡した。 空は分厚い雲に覆われ、今にも雨が降り出しそうだ。 通りを歩く人々は彼女のことを気にも留めず、それぞれ過ごしている。 誰かが近くでささやいたわけではないらしい。 この声は誰にも聞こえていないはずだ。どこかで見ているのか。 その気になれば、いつでも干渉できるらしい。 彼女は歩みを早めた。 人混みに飛び込み、声から逃げるように歩く。 神様は自分の思いを知らないのだろうか。 依り代という不自由な存在になりたくないことを知らないのだろうか。
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