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「 1章・9 」何でもする人たち
おかしい、何かが起こっている。これは、調べてみなくては。ローズ夫人は、直ぐに行動した。
そして、とんでもない事を知ったのだ。
「ジョーダン、私の息子。何処に居るのー!」
床屋を呼んで整髪していた息子は、母親の声に出て来た。
「どうしたんです、お母様。実家に行かれていたのでは?」
「驚かないでよ、ジュリアンの事よ。」
「落ち着いて下さいよ。死に損ないのジュリアンが、どうしたんですか。」
「あの子、婚約したそうよ。一緒に住んでるそうよ!」
「何ですって?その婚約者に子供が出来たら、僕の物になるはずの財産は!」
母子で、大騒ぎ。母親の弟の子供であるジュリアンが亡くなったらの話なのに。ジュリアンの持ち物は全て自分の物と思っている。
絶対に結婚なんかさせてたまるものか!
何も知らないスザンヌは、舞踏室のテラスで息抜きしていた。レッスンで足がガタガタです。
「ダンスなんか出来なくても、生きていけるわよー。やりたくない!」
あ、疲れて目が霞(かす)む。子供の頃から物が見えにくくなる病気を持っていた。治療を受けて改善されてはいるけど、ストレスや疲労で出てきてしまう。
パサパサーー。
黒い羽根が見えるけど、気のせいね。人間に黒い羽根があったら悪魔だもの。
「正解ですよ、お嬢様。私は天使のお手伝いをしている悪魔のアグアニエベでございます。お見知りおきを。」
そう言って、銀色の長い髪の美男子は挨拶をした。スザンヌ、固まる。ダンスの教師が、呼んだ。
「スザンヌ様、休憩は終わりです。練習しましょう。」
長身の悪魔は、スザンヌの肩をチョンと指で突いた。すると、不思議な事に足が勝手に動き出すではないか。
「あ、あああああああ?あー?あー!(勝手に動くんだけど?)」
アグアニエベは、指をパラパラと蠢(うごめ)かす。操り人形なようにスザンヌは教師と踊り出した。
「素晴らしいですわ、お嬢様。マスターされていたのですね、合格です!」
合格も何も、悪魔の力に操られてただけなんですけど。魔力って、こういう事なのね。怖っー!
ダンスの教師は覚えの悪い生徒に苛立っていたが、別人のように上手くなったのでご機嫌で変え行った。
雇い主から、ご褒美がもらえるだろうと喜んだのだ。
ダンスの衣装から着替えさせられたスザンヌは、部屋に1人になると呼ぶ。
「ちょっと、居るんでしょ。覗きの悪魔さん?」
「覗きは、酷いです。着替えは、目を塞いでました。何も見てませんよ。」
「キャミソールの色は?」
「ブルー!あ、ほほほほ・・・。」
この悪魔さんは、好き者(好色)らしい。下着くらい見られても、どうって事ないけど。毎日、お風呂タイムに全身をゴシゴシやられたら羞恥心も無くなるわー。
「あんた、何が目的なの?私なんかに興味ないでしょ。ボンビー男爵の娘で売られて婚約してるのに!」
「ああ、そうなんですか。分かりました、メモメモ。」
「はあ?知らなかったの!」
「私は、この屋敷に興味がありましてね。時々、来ていたのです。あなたが、ジュリアンさんの婚約者ですか。」
アグアニエベは、スザンヌをじっと見た。スザンヌは、見返した。互いに見つめ合う。そして、アグアニエベはノートを取り出す。
何をするのかと見ていると、ノートに何やら書き出した。
「お嬢様のお名前は?お義父さんとお母様のお名前は?誕生日は?住所は?」
などなど、聞いてくる。そして、考え込んだ。
「良くありませんねえ、波瀾万丈(はらんばんじょう)の人生です。今も、トラブルに巻き込まれていますよ。」
そりゃ、当たってる。だって、父親に売られたんだもの。
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