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「 2章・1 」修業したくない
魔女になろうと思ったスザンヌの最初の試練。
「ちょっと痛いかもしれないけど、その時だけだから。」
そう言って、アンジェリカは手の掌くらいの石の彫り物を手にする。そして、しげしげと眺めた。
スザンヌは、なんとなく不安。大丈夫かなーと思わせられる。大聖女様だから、気のせいよ。
「あの、この魔法は始めてじゃないですよね。」
「勿論、始めてやるわよ。この神殿は廃墟になってて、閉じられてた宝物庫で見つけた古い魔法道具だけど。使ってみたかったの。」
使ってみたかったって、実験なの?嫌、逃げ出すわ。
「あら、スザンヌさん。何処へ行くの?」
「え、トイレに行こうかと思って。」
「終わってからにして。直ぐに終わるから。手を出して、両方よ。」
「え、後にして。急がしいから。」
アンジェリカは、強引だった。スザンヌの腕を掴むと石を押し当てる。すると、石が口を開いたのだ。
「何、口、口、口ーー(口が有ると言いたい)!?」
「大聖女アンジェリカが命じる。汝の印を、この者の手に刻め!」
「痛ああああ~~~い!噛んでる噛んでる、止めてーー!」
「はい、実行!」
ガブリッーー、ブッチン!
噛まれました、思いっきり。激痛が両方の手の掌から走る。怖いよ、この人。
それから、1週間の間は両方の手が使えない。包帯を巻いて細かい作業は神殿の侍女がやってくれるのだ。
「スザンヌ様。お母様からのお手紙です。」
婚約破棄された後に神殿で暮らしていると母親に知らせた。その手紙を侍女が読んでくれる。
『私の娘が、こんな酷い目にと悲しみました。今は元気に暮らしていてくれる事を願っています。ここへ戻って来たら、お父さんに売られるかもしれないわ。あなたの幸せを祈っています。』
「まあ、お父さんに・・!酷い事をしますね。」
読んでくれた侍女が同情してくれた。母親の言う通りだ。娘の婚約で大金を手に入れて、次もと父親がやるかもしれない。戻れない。
こうなったら、絶対に魔女になって成功する。お母さんに親孝行するんだ!
強い決意はしたものの、何の進展も無く普通の一般人のままで数日が過ぎた。アンジェリカが部屋へ呼んだ。
「スザンヌさん、紹介するわ。ドルウ・ゴメスさんよ。「ドルウとパトリシアの店」の主人。」
その店の名前なら知っている。人気の店で、国の区々に店を出すくらいの大きな会社だった。
スザンヌはお金が無いから、店の前に並べた商品を見るくらいだったが。
「始めまして、あなたがスザンヌさんですね。」
そう、挨拶してくる背の高い男は、すこぶる美男子だった。スザンヌは、見惚れてしまう。アンジェリカが教えてくれる。
「内緒にしてるけど、ゴメスさんは魔法使いなの。あなたの魔力鑑定をお願いしたのよ。」
魔法使いなんだ、驚いた。そんな人には見えない。お金持ちのイケメンとしか。こんな人が恋人だったらいいな。
「私は、そういうのを得意としてないので代理人をお連れしました。マーヴィン・ハリスです。」
小柄な眼鏡を掛けた初老の男。シゲシゲとスザンヌを眺める。
「面白い波動だね、君は。鑑定のしがいがあるよ。」
スザンヌは、自分が物扱いされてる気がして落ち着かなかった。いい鑑定が出たらいいけど。
そうじゃなかったら、どうしょう。それだけが、心配!
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