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「 1章・1 」ブーケ
店の前に結婚式の飾りを付けた馬車が到着した。どうやら、レストランで披露宴が行われるようだ。
隣りのカフェのテラスに座っていた老婦人が、風潮に苦言を溢す。
「昔の結婚式には、伝統的な良さがございます。それが、召喚された勇者が自分の文化を持ち込んで変えてしまいましたわ。」
長い銀色の髪の美男は、ラテの香りを楽しみながらカップに口をつける。
「そうですね、奥様。その勇者はギルドを引退した後にウェディングプランナーで開業して事業は大繁盛でした。」
「その為に、結婚式ではブーケ投げが定着してしまいましたでしょ。」
「はい、ブーケ投げ?いけませんか?」
「いけません。嫁入り前の娘が取り合いするとは。あさましい!そう思われませんか、アグアニエベ様?」
アグアニエベは、何とも言いようが無かった。異世界の勇者が持ち込んだ風習は、この世界に定着しているからだ。
「私は、だんこ、反対です!」
怒って立ち上がった婦人に、アグアニエベは立ち上がって送る。婦人は消え去った、煙のように。
「やれやれ、幽霊の相手も疲れる。現世への愚痴ばかりだからな。だけど、私は天使のお手伝いをする悪魔です。お相手をしますよ。」
披露宴には、花婿と花嫁の家族に知人達が集まり祝った。そして、メインイベントのブーケ投げとなる。
花嫁の投げるブーケを受け取った者は、良縁に恵まれる。そのジンクスに掛けて娘達は、待ち構える。
「私の!」「私のよ!」「私のだってば!」
その中から、ブーケを掴んだのは黒い髪の娘だった。
「あ、スーザンが取ったわ。」
「貧乏男爵の娘か。ブーケを手に入れても条件のいい縁談は無理だな。」
参列者は、そう話す。スーザンは、カーター男爵の令嬢。だけど、貧乏なので朝から晩まで働いている。
その昔に祖父が手に入れた男爵という爵位は、博打に掛けられたものだ。だから、名前だけで地位も財産も無い。
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