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「 2章・8 」先生は強い
結局、夜中に出直して再び押し込められる。扉ごしに逃げて行く足音が聞こえてた。
(あの人達、ペコペコして謝ってたのに。嘘つき!)
スザンヌが仕事を終えたら、ギルドへ戻って報酬を受け取るつもりだ。スザンヌを甘く見てる。
「やっぱり、こんな事だと思ったよ。」
暗闇から声がしたので、スザンヌは顔を輝かせた。きっと、あの人だ。胸が、ときめく。
「なんだ、パトリシアさんか。」
現れた小柄な人影にガッカリして気落ちするスザンヌ。バトリシアは、首を傾げる。
「誰と思ったのかい?エドワードとか。」
「エドワードさん?まさかー。」
「違う?へー。」
「あの、バトリシアさん。喋り方、変わってるけど。」
「ああ、あれは今のバトリシアだから。この話し方は、転生前の私。」
「転生前?成る程。」
そういえば、同じ転生者とか言ってたような。そういう風に2種類を使えるんだ。スザンヌは、自分の転生前の記憶は無い。羨ましいよな違うよな。
「心配で来てみた。さあ、仕事を終わらせて奴らに思い知らせようか。」
そう宣言する丸顔ポッチャリ少女は、少しエグい気がする。その通りに、やる事が豪快。
スタスタスターー。
「出でよ、我がライトハンドの杖!」
歩きながら身構えた少女の右手に光る矢が出現。ライトハンドという事は、サードハンドもあるという事なのか。
唸り声が、館の奥から響く。
「また、肝試しの馬鹿か。命が惜しかったら帰れ!」
スザンヌは震え上がる。だって、冒険者になるのは初ですから。普通生活の女の子だし。武器だって、何も持ってない。身体1つ。
(今になって、現実ー。私って、大丈夫なの?)
両手がカタカタ震えてくる。脚が、もつれる。あ、パトリシアさんに何かが飛びかかった。
「きゃあああああ、助けててええええ!」
「終わったけど?」
叫んでいたスザンヌは、そう言われて閉じていた目を開く。すると、目の前に倒れて来たではないか。大きな魔物の身体が。
「いやああああああああーー!」
「はいはい、ちょっと触ってくれる?」
何をやらせるんだと拒否反応をこらえて、言われるままに魔物のお尻を人差し指でチョン。
プシュッーー!
暗さに慣れた視界で魔物が消えたのが分かる。バトリシアが、検査機を取り出して計測。
「成る程、抹消だな。細胞のひと欠片も残ってない。無意識にやるのなら、魔除け体質だ。とのくらいのレベルまで通用するのか実験したいな。」
バトリシアが、目をキラキラさせて言う。スザンヌが実験動物に見えているよな感じだった。
これは、強い魔物の相手をさせてデータを取るつもりだ。スザンヌの危険センサーも注意を呼び掛けている。
「バトリシアさん、私は弱いんです。強くなってからにして。お願い!」
「ううん、強いよ。私が保証する、安心しなさい。」
あなたが保証してくれても、安心できません!
「じゃ、さっさとギルドへ報告して終わらせてしまおうか。次のダンジョンは、私が選んでやるから。」
と、トコトコと玄関へ歩き出す。途中に出て来る魔物の子分を倒しながら。
「スザンヌさーん、行くでしゅう。」
呼び掛ける声は、何時もの舌ったらずモード。転生後バージョンに変わったんですね。ため息をついて玄関へと歩き出すスザンヌ。
プシュッー、プシュッー。
歩きながら踏んでく足の下で魔物の子分の身体が消え去るのには、気がついてないのだ。
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