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「 2章・10」天使の臨時会議
少しだけ、魔力を持てたスザンヌ。前の私とは違うよの勢いで、門の外から魔法を使ってみる。
使ってみるという事は、新米なので出来るかは分からないからだ。
「よし、やってやるわ。私の魔法、go!」
魔法学校で教わった事をやってみる。何かに成りきるには思い込む事。
「私は、カエル。カエルよカエル!」
門に足と腕を広げて貼り付いてみる。ズッーと上がった。
「わっ、やったやったー!」
大喜びのスザンヌ。でも、ほんの少しだけなのだ。ちょっとずつ門を這い上がるというのを30分も繰り返しただろうか。
「もしもし、お嬢様。何をされておられますか?」
背後から聞こえたのは、もしかしたら執事の声。
「ハラ(ハリス)さん、私はカエルなのよ。邪魔しないで!」
「そうでございますか。旦那様が、お待ちなのですが。お時間がかかりそうですのでお休み頂きましょう。」
「え、待ってるの。何で?」
「このお屋敷には、宮廷お抱え魔法使いが備え付けたセキュリティがございます。お嬢様が門をよじ登る時点で知らせが参りました。」
なーんだ、バレてたの。じゃ、登る必要ないじゃん。早く言ってよね。プンプン!
執事のハリスに連れられて寝室に入って来たスザンヌをジュリアンが笑顔で迎える。嬉しそうな顔に、スザンヌの機嫌も少しだけ良くなった。
「こんばんは、ジュリアン様。」
「スザンヌさん、ようこそ。訪問は、明後日では?」
「それが、事情があって(うちの駄目父親のせい)。」
「でも、会えて嬉しいですよ。」
こんなに歓迎してくれる親切な人から、お金を吸い上げる事しかしない父を許して下さい。
「お父さんが、お金を借りたって聞きました。私が働いて必ず返しますから!」
「その事?気にしなくていいから。」
「気にします!」
「スザンヌさんのおかげで、僕も少し元気になれたんですよ。どんな名医も出来なかった事だから。お礼です。謝礼を受けとらないでしょ。」
スザンヌは、溢れた涙を押し戻す。私は、何もしてないから。ただ、お見舞いに来て、タオルや食器を触って帰るだけなの。役立たずなのに。ごめんなさい!
仕方ないので、執事が抱えて持って来たシーツやパジャマや紅茶セットなとなどを触った。
今夜はサービスに、ジュリアンの寝室を走り回り寝台や家具もペタペタと手形を押す感覚で押したのたった。変わらないけどねー、残念。
「お見事でございます、スザンヌ様。」
何の効果も無いのに、優秀な執事は絶賛だ。返って申し訳なさが増すだけ。
スザンヌを屋敷の馬車で家まで送らせた後、執事は主の寝室に戻って来た。そして、安らかな寝息を立てて眠っているジュリアンに驚く。
「スースースー・・・」
ずっと、何年も熟睡出来なかったのにだ。執事は嬉しさに涙を拭う。
素晴らしいスザンヌ様。ご訪問を、お待ちいたしております。また、寝室を走り回って頂きましょう。
天国の大会場に召集された天使が集まり溢れかえっていた。
「臨時召集など、何百年も無かった。何事だ?」
何の為に集められたのか、誰も知らなかった。大天使達が登場して、その内容が語られる。それは、驚くべき事であった。
「400年ぶりに、「None」が現れる。それを予期した。その対処を振り分けておきたい。皆、そのつもりで準備されるように!」
天使の中に居たアグアニエベは、側に居る天使に尋ねた。
「あの、教えてください。「None」とは何ですか?」
「それは、「無」です。全てを無しにする力は恐ろしい!」
最後に現れたのは、400年も前だった。それまでは、100年毎に現れた事もある。その度に、全てを無に戻してしまうのだ。
「町や村が無くなるだけでは無い。大陸の国々が1夜で消えてしまった事もある。人や建物や家畜に草花が、いとも簡単に。」
その疫病神は、天使達から「None」と呼ばれて来たのだ。
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