「 1章・3 」別れ

1/1
前へ
/44ページ
次へ

「 1章・3 」別れ

売られた、父親に?豚や鶏か、私は?それも、白髪の爺ちゃんに! (あー、もう、生きてるの嫌だ。宇宙人が飛んで来て食料に拐って行ってくんないかひらのら~~~。) 買ったと言ったお爺さんには、見覚えあり。お金持ちそな仕立ての良い服と金や宝石の指輪やブレスレット。 記憶が定かじゃないけど、多分、あれだ。昨日、追い剥ぎにやられた通行人の年寄りだわ。 そういえば、何か言ってたよな。 『・・助けて下さったお礼に家に伺ったら、お父さんが居らして。話が弾んで婚約が結ばれました。いいお父さんですね!』 いいお父さんじゃないわい。普通、実の娘を売るか?グズッグズッー(鼻水と涙の音)。あのお爺さん、助けなければ良かった。 仕事が終わっての帰り道。トボトボと歩くスザンヌ。 (嫌だな、婚約なんて。好きでもない人と。それも、お爺ちゃんだなんて。ふぇーん!) 通りががったギルドの前。ここは、この国の都だからギルドが幾つもある。だから、参加者を募集中の貼り紙。 『急募「ドラゴン退治」1体で賞金額50銅貨(レート=50万円)』 スザンヌは、食い入るように見てしまう。腕の良い冒険者なら、簡単に退治できるだろう。 (あー、欲しいよ。50万円も稼げたら、2回で百万だもん。お父さんの受け取ったお金を返せるじゃん。婚約しなくても、いいしい!) だけど、問題はスザンヌに1つも職業スキルが備わってない事だ。小学生になる前に検定を受けたら、何も出なかった。 あったら、良かった。魔術師なんて最高。能力が高ければ、王立アカデミーへ迎えられて高級待遇。羨ましい! (うちは、1人も魔力が無いからなー。) 遺伝もあるから、無理なんだ。でも、諦めきれない。好きな人と恋して結婚したかったのに。シクシクー。 あー、いけない。泣いてたら、お母さんが泣く。知らないふりして、笑ってないと。ニコニコ(バキッ)、笑顔が割れるわ。 「ただいま、お母さん。あれ、泣いてるの?」 帰って来た娘に、母親は土下座して謝った。 「ごめんなさい、ごめんなさいスザンヌ。お母さんを許してちょうだい!」 スザンヌは、泣く母親を抱き締める。お母さんは、悪くないのに。悪いのは、お父さんなのに。後は、2人で泣くしかなかった。 約束の日に、下町のスザンヌ一家が住むアパートの前に高級な馬車が止まった。婚約した家からの迎えである。 婚約者として、花嫁修業に入るという事を求められて断れなかった。涙をこらえたスザンヌは、その馬車に乗る。母親は、何時までも馬車を見送っていた。 (お母さん、心配しないで。スザンヌは、まけないから。りっぱなメイドになるし!違った、花嫁になるし!) 馬車の中から、スザンヌは手を振る。母親が借金して買い求めてくれた指輪やネックレスの袋を握り締めて。出来る限りの嫁入り道具だった。
/44ページ

最初のコメントを投稿しよう!

62人が本棚に入れています
本棚に追加