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「 1章・8 」嫌なお客様
気がついてみると、屋敷の生活に馴染んでしまっていた少女。窮屈だと思っていたのに、今では勉強以外は苦にならない。
(ご飯は美味しいしい、ドレスはくれるしい、メイドが居るしい。ここで暮らすのもいいかも。)
ただ、家族に会いに行けないのが寂しい。あのまま下町に居たら、こんな贅沢な暮らしは出来なかった。少しは、幸せかもしれない。
(でも、問題よねえ。あのお爺ちゃんと結婚したくないしい。どうしょうか。)
お金に目がくらむのか、悩む処だった。スザンヌは、笑い声が聞こえた気がして見回す。
(変ねえ、聞こえたのに。空耳?)
吹き出したよな笑い声だった。試しに言ってみる。
「笑い者にしたら、お仕置きするわよ!」
スザンヌの周りに風が吹き抜けた。生暖かい気持ちの悪い風。何なのだろう。部屋の中を探し回っていると、メイドが尋ねてくる。
「お嬢様、どうされましたか?」
「なんかね、変なのが居るのよ。」
「変なのですか、どんなの?」
「見えないから、困ってるの。」
メイドは、不思議な物でも見るようにスザンヌを見る。スザンヌは、何なのだろうと見返した。
「お嬢様は、見えない物を感じ取られる方なのですか?」
妙な事を聞いてくる。見えない物は、見えないでしょ。私には、そんな特技は無いの。スザンヌは、笑った。
「そんなの、無いわ。だって、6歳の時の魔力検定で魔力は微力て出たんです。」
この国では、6歳で魔力検定を受けるのが義務付けられている。スザンヌの家は、魔力を持ってる者は居ない。
「ずっーと昔に、聖女が居たらしいけど。私の家は平凡な人ばっかりよ。」
メイドは、「祖先に聖女」と繰り返す。それに、興味を持ったらしい。
あまりというか、殆ど人の出入りの無い屋敷。現在は、スザンヌの行儀見習いの教師が来るくらいだ。それが、今日は客がやって来た。貴族のだと分かる馬車で。
「おいでなさいませ、ローズ奥様、ジョーダン様。主人にお知らせいたします。」
執事のハリスが出迎える。約束も無しに訪問中してきた母親と息子の客だ。横柄な態度で息子が止めた。
「いいんだよ、ハリス。どうせ、ジュリアンは寝てるんだろ。起こしても起き上がれないし。」
「失礼よ、ジョーダン。長くは生きられない人に対して、口を慎みなさい。私達は、心配して見に来てるだけなのよ。使用人が主人が病気なのをいい事に勝手してないか。」
親が親なら子も子だ。言いたい放題だが、ハリスは無表情で受け流した。
「旦那様は最近は体調も良く、お話できると思います。お待ち下さい。」
母親と息子は、驚いた。寝てばかりのはずの病人が元気になっているというのだ。半信半疑で待っている2人は、落ち着かない。
「ねえ、本当かしら。ジュリアンが元気になられると困るわ。この屋敷も財産も、あなたが継ぐ事になってるのに!」
「大丈夫だって、お母様。あいつ、産まれた時から弱いんだ。」
「もっと早くに亡くなってくれればいいのに。こんなに長く生きるとは思わなかったわ。」
「これ、持って帰れないかな。どうせ、僕の物がになるんだし。高く売れそうだ。」
ジュリアンは、応接室へゆっくりと入った。笑顔で親類に挨拶する。相手が自分が立って歩いている事に驚き失望しているのを気がつかないふりをして。
彼らは、自分が早く死ぬのを待っている。我が家には、男の子が自分以外は誕生しなかった。相続権は、この息子にあるのだ。
(僕は、簡単には死なないよ!)
怒りが、胸の中に沸き上がる。沸々とする感情。感じた事の無い物で心地よい。これが、生きているという事なのかもしれない。
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