分がんねごどあったら、誰かさ聞いて

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分がんねごどあったら、誰かさ聞いて

「すみません」  4月も終わりに差し掛かった金曜日の18時半。フロア担当として本を棚に戻しているところに声をかけられた。  ボブカットの黒髪、眼鏡。そして、市内一の進学校、米沢興譲館(よねざわこうじょうかん)高校の制服。いかにも本を読みそうな子だと思った。 「はい。どうされましたか」 「検索したんですけど、その場所にないんです」  彼女が検索機を指差した。画面をのぞく。分類番号は小説を示す「913カ」だ。とりあえず、検索機に表示されている棚に行ってみる。彼女は黙って俺の後ろをついてきた。 「ほんとだ。ないですね」  913カの棚全部を眺めてみたが、どこにも見当たらない。彼女は無表情で頷いた。 「もしかして、貸し出し処理をしないまま、その本を持っている方がいらっしゃるのかもしれません」 「わかりました。ありがとうございました」  彼女は悲しげに頭を下げると、棚の間をすり抜け、俺の前からいなくなった。閉館まであと1時間半。もうひと頑張りだ。俺は、左腕に抱えた本を棚に戻す作業に戻った。
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