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「あ。ここにあった」
閉館後、新刊コーナーの本の乱れを直している時、先ほどの彼女が探していた本を見つけた。裏表紙をめくり、見返しに押してある受入日のハンコを確かめると、一昨年の日付だった。職員か利用者かは分からないが、本を棚に戻す時に間違えてしまったのだろう。
「どうした?」
俺の声を聞きつけた梅津さんが、棚の裏側から顔をのぞかせる。事の経緯を話すと、梅津さんの顔が曇った。
「えっ。そのまま帰しちゃったの? 利用者の名前は?」
「聞いてないです」
梅津さんがため息をついた。高校生の彼女に本がないと告げた時は、正直何とも思わなかったのに、一気に後悔が押し寄せてきた。
「だめでしたか?」
「教えてなかった私も悪いけど……。本が見つからね時は、予約してもらって」
「予約? 貸出可能なのに、予約なんてできるんですか?」
「されるよ。インターネットからも貸出可能の本、予約できるでしょう? その前に、そういう時は真っ先に新刊コーナー、特集コーナーを探してね。あと、事務室の中にある修理本の棚。データを修正して無がったり、本を間違って戻したってこともあっから。今度からは気ぃつけてな。分がんねごとあったら、まず誰かさ聞いて」
いつも笑顔を絶やさない梅津さんが、にこりともしなかった。「非正規だし、適当に仕事をすればいいや」という俺の気持ちが見透かされたように感じた。
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