分がんねごどあったら、誰かさ聞いて

2/3

36人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ
「あ。ここにあった」  閉館後、新刊コーナーの本の乱れを直している時、先ほどの彼女が探していた本を見つけた。裏表紙をめくり、見返しに押してある受入日のハンコを確かめると、一昨年の日付だった。職員か利用者かは分からないが、本を棚に戻す時に間違えてしまったのだろう。 「どうした?」  俺の声を聞きつけた梅津さんが、棚の裏側から顔をのぞかせる。事の経緯を話すと、梅津さんの顔が曇った。 「えっ。そのまま帰しちゃったの? 利用者の名前は?」 「聞いてないです」  梅津さんがため息をついた。高校生の彼女に本がないと告げた時は、正直何とも思わなかったのに、一気に後悔が押し寄せてきた。 「だめでしたか?」 「教えてなかった私も悪いけど……。本が見つからね時は、予約してもらって」 「予約? 貸出可能なのに、予約なんてできるんですか?」 「されるよ。インターネットからも貸出可能の本、予約できるでしょう? その前に、そういう時は真っ先に新刊コーナー、特集コーナーを探してね。あと、事務室の中にある修理本の棚。データを修正して()がったり、本を間違って戻したってこともあっから。今度からは気ぃつけてな。分がんねごとあったら、まず誰かさ聞いて」  いつも笑顔を絶やさない梅津さんが、にこりともしなかった。「非正規だし、適当に仕事をすればいいや」という俺の気持ちが見透かされたように感じた。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

36人が本棚に入れています
本棚に追加