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よくござったなっし
5月になった。ゴールデンウィークで利用者が増え、カウンターもフロアも忙しくなった。
カウンターの向かいにある、館内案内図の前で立ちつくす女性がいた。俺と同じくらいの年だと思う。あの人があそこに立つのは2回目だ。
彼女は、図書館に入ってすぐに検索機に近づき、検索結果をメモしていた。その後、案内図を確認してから、新聞・雑誌コーナーの方(俺から見て右側)に歩き始めたのだが、反対側の児童書コーナーから戻ってきた。どうやら、本を見つけられずに1周してきたらしい。
困っている人が目の前にいる。俺の心臓が早くなり、ばくばくという音が聞こえた。
声をかける? 本当に必要だったら俺に話しかけてくるんじゃないか? 迷惑かも。でも、係の人に声をかけるのって、結構勇気がいるよな。
胸元に視線を落とす。紺のエプロン。おばあちゃんが「かっこいいごど」と喜んでくれたエプロン。俺はつばを飲み込んだ。カウンターの隙間を通り、女性に近付いていく。
「なにかお困りですか?」
女性がゆっくりと振り向いた。強張った顔が、俺のエプロンを見て、ほっとした表情に変わった。
「あの。これ、どこにあるんでしょうか。私、初めて来たから分からなくて……」
彼女が差し出したメモを受け取ると、丸みを帯びた字で本のタイトルと分類番号が書いてある。簡単料理レシピ。596。
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