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視線を感じて顔を上げると、おばあちゃんが目を細めて俺を見ていた。
「まだいたんだ。何か用?」
「なんもねぇよ。ただ、たのもしいなぁ、立派になったなぁって」
立派にはなってないんだよ。だって俺は非正規職員だから。
言えるわけない。こんなに嬉しそうなおばあちゃんを見たら。
「ありがとう。おばあちゃんがここの求人見つけてくれたおかげ」
「けんちゃんの実力だごで。頑張ってな」
「ありがとう。おばあちゃんも健康には気をつけて」
「んだな。今日、けんちゃんさ会わっちぇ良がった。おしょうしな」
おばあちゃんは左を向いて、新刊コーナーに歩いて行った。勝手知ったる様子で、その足取りに迷いはない。俺は文庫本のチェックを再開した。
葉山謙一、22歳、男。彼女なし。山形県米沢市にある「市立米沢図書館」の補助職員1年目。これが今の俺を構成する要素だ。
俺の実力。
文庫本がぱらぱらとめくれる。風が生まれる。前髪が、ふわりと浮いた。
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