いちまる

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いちまる

 俺は山形市出身だから、①を「いちまる」と読む側の人間だった。だが、大学生活を経て、「まるいち」または「いちばん」と読むようになった。去年まで宮城県仙台市の大学に在学しており、「いちまる」を馬鹿にされたからだ。  授業に出るのも緊張していた大学1年生4月の上旬。中国語の先生を待つ間、友人がにやにやしながら聞いてきた。 「これ何て読む?」  テキストの「①」を人差し指で叩く。俺は顔をしかめながら答える。 「いちまる」 「本当に言うんだ。都市伝説かと思ってた」  友人が喉で笑うので、俺はますます苛立った。お前だって福島県出身だろ。山形とそんな変わんねぇじゃねえか。  6月になる頃には、みんなが聞いてくる質問「本当にいちまるって言うの?」にうんざりしていた。 「言うよ。『いちかっこ』『いちしかく』も言う。『いちほし』『いちひし』は言わない。他の数字も同じ。以上!」  星に数字が入ってたら? ひし形で囲まれてたら? 丸の中に1000が入ってても「せんまる」って言う? 入学直後に散々聞かれすぎた結果、先回りして答えるようになってしまった。  お隣の宮城県ですらこうなのだから、もっと離れた大学に進学した人は相当大変だろう。高校時代の数学教師を思い出す。山形出身のくせに、(かたく)なに「まるいち」「かっこいち」と読むもんだから、「スカしてる」と生徒から馬鹿にされていた。  今思うと、東京の大学に行ってたらしいから、俺と同じ思いをしてきたんだろうな。申し訳なかったと今更ながら後悔する。
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