きゃーましてっこど

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きゃーましてっこど

「こいづ読んでけんにが? 字ぃ(こま)くてぜんぜん読めねなよぉ。やんだくって」  4月2週目の月曜日。出入り口の真正面のカウンターに立っていると、かなりなまっている高齢の女性に話しかけられた。曲がった背中を何とか伸ばして、カウンターの上で雑誌を開く。 「料理の作り方? これを読めばいいんですね?」  確かめるように女性を見ると、女性が頷いた。 「まるいち」  レシピに指を添え、読み始めると、女性が聞き返してくる。 「あ? まるいぢ?」 「えーっと、いちまるです」 「あー、いぢまるな。ほだら最初からそう言えばいいべした。きゃーましてっこど。山形(やまがだ)の人でねぇんがした」  きゃーましてっこど、が何か分からなかったが、隣についていてくれている梅津(うめつ)さん(50代女性・生まれも育ちも米沢市)が眉をひそめたから、あまりよくない意味なのだろう。最後は分かった。「山形出身の人ではないのか?」と聞かれている。 「いえ。山形市出身です」 「坂本さん。その子新人だから、あまり(いじ)めねで」  梅津さんが助け舟を出してくれる。 「ほーか。そしたら、梅津さん、こいづ読んでけろ」  坂本さんと呼ばれた利用者は、カウンターの上で雑誌を滑らせた。 「これね。読んであげることもできっけど、拡大コピーした方が使い()いと思う。お金かかっけど、どうする?」 「んだな。うちで使うんだもんな。そうしてけろハ」 「白黒だと10円、カラーは80円」 「せっかくだからカラーでしてみっかな」 「じゃあ、コピー機の方行くべな」  梅津さんは雑誌を持ち、カウンターの横から外に出る。坂本さんの隣に中腰で立つと、右人差し指でコピー機を指した。 「あそこまで歩かれる?」 「大丈夫だ。杖持ってっから」 「気ぃつけてゆっくりな」  梅津さんが、坂本さんに寄り添うように歩いていく。
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