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かっこいいごど
日本人は次の2つに分けられる。①を「まるいち」と読む人間と、「いちまる」と読む人間だ。
「けんちゃん」
後者である母方のおばあちゃんが、防犯ゲートの間から手を振る。しわしわの笑顔を浮かべ、真正面にあるカウンターに近づいてくる。
「似合ってだな。かっこいいごど」
俺がしているのは、膝下まである紺のエプロン。胸と腰にポケットがついているだけのシンプルなデザインだ。それでも、まるで晴れ着姿を見たかのように、嬉しそうにしてくれる。
「ありがと」
俺は照れ臭くて、下に目を逸らした。おばあちゃんの手に握られたビニール製のバッグが見えた。
「返却?」
おばあちゃんはおもむろにバッグに手を入れる。
「んだ。こいづ返しさ来たなよ」
おばあちゃんがカウンターの上に置いたのは、時代小説の文庫本10冊。
「全部読んだの?」
驚いて尋ねる。
「時間だけはあっからよ」
本を白い板の上に重ね、エンターキーを押す。この白い板でICタグを読み込んでいるらしい。目の前のモニターに「10冊」と表示された。間違いなく返却処理がされた証拠だ。
「はい。ありがとうございました」
一番上の本を1冊右手に持った。小口に親指をかけ、それ以外の4本で本の背を支える。親指を使って、ページを高速でめくっていく。挟まっている物や、破れている箇所がないか確かめるためだ。トランプをシャッフルしているみたいな音が鳴る。この音が少しだけ好きだった。
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