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恋はさくら色
宮野さんの言う通り、確かに今の僕たちには話す事が必要だと思った。
卜部君は僕の事を好きって言ってくれたのに否定して、キスしてくれたのに疑って宮野さんとの仲を誤解して、勝手に卜部君の気持ちを決めつけてた。
実際に僕が見た卜部君はいつも全身で『僕の事が好き』って言ってくれてたのに。そんなはずはないって思いこもうとしてた。
もし違っていたら立ち直れないと思ったから。
―――全部僕に自信がないせい。
*****
暗い夜道を並んで歩きながらちらりと隣りを窺えば、心配そうな卜部君の瞳とぶつかる。
また僕は卜部君にこんな瞳をさせてしまっているんだ…。
勇気を出さなきゃ―――。
「「あの…っ」」
声が重なり同時に口をつぐむ。
「卜部君から…いいよ」
「いや、櫻井から……」
お互いに譲り合う。が、いつもなら黙っちゃうところだけど、僕は変わるんだ。変わりたいんだ。
「僕ね…宮野さんとの事…誤解してた。卜部君と付き合ってるって思ってたんだ。それなのに僕の事好きって言ってみたり…キ…スしてみたり……。混乱しちゃって、あの時は突き飛ばしちゃってごめんね……」
「いや、全部俺が悪い…。弥生の事も櫻井には妹だってちゃんと伝えておけば良かったんだ。キスだって櫻井の気持ちを確認してからすれば良かったのに完全に暴走した。だから俺が悪い。ごめん。それに自分にどんな噂があるか知ってる。別に誰に何を言われたって気にもしてなかった。でもそのせいで櫻井が俺の事信じられなかったんだろう?櫻井に誤解されるのはやっぱキツイ。気になる事があったら何でも訊いてくれ。櫻井になら何でも答えるから」
「――ううん。噂なんか信じてないよ。僕は自分が見た卜部君の事を信じる。卜部君はいつも僕に好意を示してくれていたのに僕がポンコツだから卜部君の事…というより自分の事が信じられなかったんだ。こんなに素敵な卜部君が僕なんかの事好きになるはずがないって――」
「自分の事『ポンコツ』だとか『僕なんか』なんて言うなよ。たとえ櫻井でも今度言ったら怒るぞ。櫻井はポンコツじゃないし、なんかでもない。さっき訊いたけど弥生の事助けてくれたんだろう?ありがとう。あいつあまり人づきあいがうまくなくて誤解を受けやすいんだ。あの先輩キツイし勇気がいっただろう?櫻井はすごいよ。流石は俺の好きになったやつだって思った―――」
そう言って少し照れたように優しく笑う卜部君。本当好き。大好き。
やっぱりまだ自分に自信は持てないけど、でも僕が卜部君の事を好きだっていう気持ちには自信が持てるよ。
だから前を向いて自信を持って卜部君に言える。
「……卜部君……僕は卜部君の事が好き……です。恋人に、なって下さい」
一瞬卜部君は瞳を見開いて、すぐに破顔した。
「――俺も…櫻井の事が好きだよ。櫻井だけが好きだ。恋人になろう」
少しだけ、ほんの少しだけでも僕は変わる事ができたかな?
卜部君と僕との差を縮める事できたかな?
嬉しそうに笑う卜部君の瞳にキラリと光るものを見つけ、勇気を出して良かったって思ったんだ。
*****
「あ、噂とは別に一つ訊きたい事あった。似合ってるけどどうして髪の毛ピンク色なの?」
僕の質問に少しだけ遠い目をする卜部君。昔を懐かしむようなそんな瞳。
「――昔、家族が仲良かった頃は毎年お花見に行ってたんだ。満開の桜の木の下で家族四人笑い合ってた。あの頃が一番幸せだった。俺にとってピンク――さくらの色は幸せの色なんだ」
ピンク色に込めた卜部君の想い。
僕なんかじゃきっと本当の意味で理解する事はできない。
だけど、その大切な想いを受け止める事はできる。一緒に大事にしていく事はできるんだ。
「そっか……素敵だね。ピンク色の髪僕はすごく好きだよ」
卜部君にとってのさくらの色は家族が幸せだった頃の記憶。
僕にとってのさくらの色は卜部君との恋の始まりの色。
どちらも大切で代わりのない想い。
もう桜は散ってしまったけれど、僕たちの心にはきっとずっと咲き続けるんだ。二人のさくら色の想いが。
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