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やっとバイトが終わり着替えた後、辞める事を言う為にチーフの部屋に向っていた。チーフは事務仕事もあるので一人だけ専用の部屋があるのだ。
途中、廊下の先で男女の話し声が聞こえて来た。
そっと覗いてみると卜部君と宮野さんだった。
心配で迎えに来たのかな?
宮野さんが卜部君に抱き着いて泣いていた。
二人の姿にズキズキと胸が痛む。
「お兄ちゃん私――――」
「え?お兄ちゃん……?」
思わず声に出して言ってしまった。
小さくはない僕の声に二人は振り向き僕の姿をみつけると、バツの悪そうな顔をした。
「あ―――。兄妹で同じところでバイトしてるとか恥ずかしくて秘密にしてたんだ…」
卜部君は後ろ頭を乱暴に掻きながらそう言った。
「でも苗字が……」
「両親が離婚してて父と母とそれぞれに引き取られたんだ。だから苗字が違うけど血の繋がった兄妹だよ。そういう説明もいちいちするのは面倒というか――」
「――――そ、うなんだ……」
言われてみれば二人はどことなく似ている。二人の目元に同じ優しさを見つけ目を細める。
なーんだ。二人は兄妹で付き合ってなんかいなかったんだ。
さっきまで死にそうなくらい辛かったのに、気持ちがすーっと軽くなるのを感じた。
あれ?じゃあ……。
「お兄ちゃん…。私バイト辞め……ない」
「―――そうか」
優しくそう言う卜部君の顔は確かに『兄』の顔をしていた。
「私、櫻井君の事好きだわ」
「「え??」」
卜部君と僕の声が重なる。
そんな僕たちを見て宮野さんは「ふふふ」といたずらっ子みたいな笑みを浮かべた。
「大丈夫よ。私の好きは人類愛?お兄ちゃんの想い人に横恋慕なんかしないわ。お兄ちゃんの恋人は私にとっても家族と同じだもの」
「え…。僕たちまだ付き合ってなんか―――あ…っ」
自分の言葉にぼわりと顔が真っ赤になる。卜部君を見ると同じように真っ赤で、恥ずかしいのに―――何だか嬉しい。
宮野さんは僕たちを交互に見てにやりと笑って、
「じゃあ、邪魔者は消えるから二人でよく話すといいと思う。お兄ちゃん頑張って?」
そう言い残して帰って行った。
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