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チリンチリン、とドアに付いたベルの音と共に少女は、異界の扉を開いた。
「ここは……。」
だが、当の本人はそれを知らずに開いてしまったようだ。
「いらっしゃいませ。」
「ひっ、」怯える少女の前には、黒のタキシードに身を包んだ金髪の男が、礼をしてこちらを迎えている。
「当店はあなたが求める物ならば、全て御用意致します。あなたは何を求め、ここにいらっしゃったのでしょうか?」
少女の様子になど目もくれず、糸目の男は定型文の様に少女に問い掛ける。辺りには少女には理解出来ない物が溢れていた。色とりどりのフラスコ、動いていない歪な形の時計、黒く光る球体……どれも少女の日常には関わりが無い物達だ。
求める物、少女は混乱しながらも声を振り絞る。
「わ、私は、ママが欲しい。」
そのひとことを告げると、少女は自分でもよく分からないまま感情が溢れ出し涙を流した。自分でも何故こんなに苦しく声を出しているのか……。
「優しかった、ママが、欲しい。」
「左様でございますか。もちろん、御用意出来ますよ。」
自分で求めた事だったが、そんなもの叶えられる訳無いと少女は思っていた。それも初めて会う良くわからない人に。自分でも何を口にしているのだろうと少女は戸惑った。そんな少女に男は一つ商品を薦めた。
「こちらの商品になります。
名を"懇願する人形"
と申します。」
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