~求める者〜

2/13
前へ
/80ページ
次へ
 チリンチリン、とドアに付いたベルの音と共に少女は、異界の扉を開いた。 「ここは……。」 だが、当の本人はそれを知らずに開いてしまったようだ。 「いらっしゃいませ。」 「ひっ、」怯える少女の前には、黒のタキシードに身を包んだ金髪の男が、礼をしてこちらを迎えている。 「当店はあなたが求める物ならば、全て御用意致します。あなたは何を求め、ここにいらっしゃったのでしょうか?」 少女の様子になど目もくれず、糸目の男は定型文の様に少女に問い掛ける。辺りには少女には理解出来ない物が溢れていた。色とりどりのフラスコ、動いていない歪な形の時計、黒く光る球体……どれも少女の日常には関わりが無い物達だ。 求める物、少女は混乱しながらも声を振り絞る。 「わ、私は、ママが欲しい。」 そのひとことを告げると、少女は自分でもよく分からないまま感情が溢れ出し涙を流した。自分でも何故こんなに苦しく声を出しているのか……。 「優しかった、ママが、欲しい。」 「左様でございますか。もちろん、御用意出来ますよ。」 自分で求めた事だったが、そんなもの叶えられる訳無いと少女は思っていた。それも初めて会う良くわからない人に。自分でも何を口にしているのだろうと少女は戸惑った。そんな少女に男は一つ商品を薦めた。 「こちらの商品になります。      名を"懇願する人形"              と申します。」
/80ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加