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定年して、二人で
外食やドライブ、
旅も楽しんだりしたけれど、
一番の思い出は
食後の妻のピアノ。
〆にはリストの『愛の夢』
メロディの合間に
眼が合ったりして微笑んで・・・。
夢見るような歳月を
妻はいつも隣で
奏でてくれていた。
つい二時間ほど前
荼毘に付された妻。
なんだか、子供達の前で
大泣きしてしまいそうで
言い訳をつけて独りできた
二人馴染みの駅の喫茶店。
コンコースのピアノから
偶然流れた『愛の夢』
涙が零れて新聞で顔を隠した。
やわらかな音色に乗って
妻は先に旅立ってゆく・・・。
さようなら・・・さようなら。
僕にだけ告げてくれた
妻のサヨナラに
この“せめてもの気持ち”を
どのようにして、妻に
伝えればいいのだろうか・・・。
ー 第四曲 幕 ー
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