第一曲  昔 の ひ と

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彼女が弾くのは 『浜辺の歌』 大正期に出来た ウインナワルツ調の唱歌。 老婆の髪がまだ黒々と 手指に皺など一線もない昔、 彼女は恋人と、とある村の教場で 夕暮れによく歌ってた。 教員になったばかりの彼と 隣村の娘の淡い恋。 世界中、何処にでもある恋だった。 歌の通りに浜辺が凪いだ世であれば 二人は共白髪であったはず・・・。 見知らぬ偉い人が起こした 見知らぬ国の取り合いに 戦さなんぞが始まらなければ 二人のメロディは 幸福だけを奏でたけれど 彼は南方の露と消え、 彼女の心は 取り遺された・・・。
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