96人が本棚に入れています
本棚に追加
記憶がないほど
僕はボンヤリしていた。
どこをどうしてきたのだか…
旅行の初日にきた喫茶店にいた。
中央コンコースのピアノから
優しい音が届く……。
五分もなかった毬江との再会。
「死ぬまでに、あなたに
“昔”を謝りたかった」
毬江はそう言った。
僕に謝りたいほど
毬江は幸福だったのだ。
悔しいが…寂寥感は否めない。
でも……
「あら?あなたもここに?」
示し合わせたわけでもないのに
妻が手を振りながらこちらへ。
「今日のピアノは六甲おろし
じゃないのね」
「ああ、ほら、教育テレビで
子供達が踊っていた曲だ」
「ホント、よく覚えてらしたわね」
ガラスに映る似たもの夫婦。
なんだかほっとして…
涙がこみ上げてきた。
ー 幕 ー
最初のコメントを投稿しよう!