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北島早穂子と僕が
別れることになったのは五年前、
娘が中学生になった春だった。
娘が小学校へ上がってすぐ、
妻は事故死、たまたま
隣に兄夫婦や両親が住んでいた
ことが幸いして、どうにか
娘を育てて数年した頃、
得意先で出逢ったのが早穂子。
僕は四十になったばかりで
早穂子は三つ下。
交際下手、ことに
女性扱いを苦手とする僕が、
妻以外に気心を許せた早穂子は、
早くに母親を亡くし、
四人弟妹の長女として、
家庭の要となり、婚期を
逃していた優しい女だった。
そんな彼女を
手に汗握る思いで
やっと誘った初めてのデートは、
ホテルのラウンジでの
ディナーシアター。
映像の古い街並みに流れる音楽は
『ムーン・リバー』
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