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二時半になった。
時計は別の物に替わっていたが、
あの日の早穂子の寂しい笑顔の
後ろにあった位置はそのままだ。
本を閉じて、目を閉じた。
(今日でスッパリ忘れよう)
…必死で自分に唱える…。
帰りには娘の好きな菓子を買い、
笑って「ただいま」を
言わなくては、娘の勇気に
申し訳が立たない。
そんなこと…考える耳に
ピアノの音色が…、
懐かしの“ムーン・リバー”。
驚いて目を開けると…
開けると……!!
「ピアノの前にいた方に
お願いして弾いて戴きました」
……穏やかな早穂子がいて
僕は…僕は人目もはばからず
五年分を抱きしめた。
ー 幕 ー
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