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幕間実話
「あの…一曲弾いてもらえますか?」
真面目そうな四十手前の
おっちゃんに言われたピアノ前。
「私等、プロやないですよ」
「いや、上手やないですか。
いや、あの、いや、今から
女性が、戻って、その…
『結婚を前提に』とか
上手く…あの…言いたいんで」
口下手で真っ赤な顔のおっちゃん。
すると、こちらへ歩み寄って来る
同年風の女性が。
咄嗟に友が弾いた“ムーン・リバー”。
食事のあとで彼女は、
お化粧直しに行ってた様子。
私はおっちゃんに言いました。
「『そこの“4℃”で指輪を
買ってもいいですか』って
店を指すんやで!」
火柱みたいなおっちゃんの横、
友が奏でるピアノに合わせて
そっと歌った“ムーン・リバー”。
優しい顔で頷いた彼女と
指輪を選んでいたおっちゃん。
あれから二十年…。
月は満ちてるや、欠けてるや…。
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