第二曲  夢 の 楽 土

2/5

96人が本棚に入れています
本棚に追加
/62ページ
 🎵 ブナの森の葉隠れに    唄い笑い賑わしや    松明赤く照り渡り    木葉敷きいて 宴する    あれぞ流浪の人の群れ      ~~~~~ 🎵 (クラシック?学校で習ったか?)  薄い知識が男を過る。 「胸に響くわあ、上手ねぇ」 聴衆の女達が囁く。 (音大でも目指してるのかな、  確かに玄人顔負けだ・・・) ピアノと歌が止んで 拍手に高校生達が笑顔。 (屈託ない・・・そりゃそうだ。  飯を食う術も知らない道楽、  呑気なもんさ) 男はその日も雑踏へまた紛れた。 男は屈託なくはおられぬ妻帯者。 まだ小さい子供が二人、養うために、 電車を乗り継ぎ乗り継ぎ、 (こうべ)の上がる暇ない 愛想尽くしの毎日なのだ。 けれども・・・ 文句を言いながらも その女子校生の歌声に出くわすと 足を止めずにはおれなかった。 耳を澄まさずにはおれなかった。 ピアノと歌声、しかも 来る日も、来る日も『流浪の民』。 歌う彼女にはまるで 彷徨(さまよい)の民であるような 憂いすら浮かんでいた。 そんな半年ほど経った三月、 制服でない彼女達がピアノの前に。
/62ページ

最初のコメントを投稿しよう!

96人が本棚に入れています
本棚に追加