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🎵 ブナの森の葉隠れに
唄い笑い賑わしや
松明赤く照り渡り
木葉敷きいて 宴する
あれぞ流浪の人の群れ
~~~~~ 🎵
(クラシック?学校で習ったか?)
薄い知識が男を過る。
「胸に響くわあ、上手ねぇ」
聴衆の女達が囁く。
(音大でも目指してるのかな、
確かに玄人顔負けだ・・・)
ピアノと歌が止んで
拍手に高校生達が笑顔。
(屈託ない・・・そりゃそうだ。
飯を食う術も知らない道楽、
呑気なもんさ)
男はその日も雑踏へまた紛れた。
男は屈託なくはおられぬ妻帯者。
まだ小さい子供が二人、養うために、
電車を乗り継ぎ乗り継ぎ、
頭の上がる暇ない
愛想尽くしの毎日なのだ。
けれども・・・
文句を言いながらも
その女子校生の歌声に出くわすと
足を止めずにはおれなかった。
耳を澄まさずにはおれなかった。
ピアノと歌声、しかも
来る日も、来る日も『流浪の民』。
歌う彼女にはまるで
彷徨の民であるような
憂いすら浮かんでいた。
そんな半年ほど経った三月、
制服でない彼女達がピアノの前に。
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