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光
病気で倒れてから約半年。
俺は、ようやくわが家へ帰ることができた。
年甲斐もなく妻と泣いてしまったあの日から。
入院中、思うように動かない自分の身体にいら立ち、何度も心が折れそうになったけれど。妻の支えと、娘の励ましの言葉を胸に何とか頑張ってこれた。
何度感謝しても足りないだろう。
家に帰ることを目標にリハビリを頑張ってきたおかげで、杖なしでも歩けるようになり、手も何とか動かせるようになった。以前と比べると少しぎこちないけれど、普通に生活をする分には困らない程度まで回復をした。
久しぶりの我が家では、妻と娘がキッチンで料理をしていた。退院のお祝いに俺の好物を作ってくれるらしい。
俺が倒れる前は見たことのない光景だった。家の手伝いをしたことのない娘は、俺の入院中に家事を手伝うようになっていたようだ。
「お砂糖入れて」
「どのくらい?」
妻と娘の楽しそうな声が響く。
「ぱぱ~、晩ごはんもう少しでできるから待っててね」
キッチンから顔を覗かせた娘が笑顔で声を掛けてくる。
いつもの娘の笑顔に、「ありがとう」と返事をする。
まだ少しぎこちない右手をさすり、ぼんやりとリビングを見渡す。
俺と妻と娘。いつもと変わらないリビングに、いつもの家族の時間。同じようで、少しづつ変化をしていることを実感する。
願わくば、このいつもの光景がいつまでも続きますように。
支えてくれる妻と娘、いつもの日常に「ありがとう」を胸に、今日も生きていく。
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