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〔籠の中〕
僕はいつも窓から見ていた。自由に大空を飛び回る鳥達を…
たまに窓の隙間から入り込んでくる、外の匂いに憧れた。
僕は生まれた時から、籠の中に居た。回りにも同じ籠がいくつも並び、同じように鳥達が暮らしていた。
それが当たり前だと思っていたんだ。
でもそれは間違っていた。ある日初老の男性が、僕を籠のまま外に連れ出した。
初めて見た外の世界、どこまでも青く、広い広い空。
その時見たんだ、その眩しいぐらいの青空を自由に飛び回る鳥達を。
僕もいつかは、あの鳥達のように自由に飛べると信じていた。
しかし、それは僕の願望でしかなかった。
少し広くなった僕の籠。空は見えるけど、屋根のある広い部屋の中。
男性は、僕を見るたびに話し掛けて来た。
「ここから出して!自由に空を飛ばせてよ!」
僕がいくら叫んでも、男性はニコニコしながら、僕を見ているだけ。
僕の毎日は決まっていた。ゴハンを食べて、水を飲んで、外を眺めては、飛んでいる鳥達に嫉妬する。
そして、話し掛けて来た男性に叫び続ける。「ここから出せ!」と…
ある日、籠の扉に隙間を見つけた。ゴハンを入れた時に、キチンと閉まってなかったのかもしれない。
僕は前に見たことがあった。まだ籠がいくつも並んでいた時に、籠の小さな扉から鳥が出て行くのを。
僕はクチバシで扉を押した。自由への扉が開いた気がした。
僕は迷わず外に出た。そして窓から大空に向かって飛び出した。
いくら羽ばたいても、何も当たらない。どれだけ飛ぼうが終わりが見えない。
僕は自由だった。誰も僕を止める事も、縛る事も出来ない…
ハズだった。
青かった空は、どんどん暗くなった。風が吹き、大量の水が空から降って来た。
「寒い…冷たい…」
大きな木を見つけ、そこの枝に止まって雨をしのいだ。
近くに同じように小鳥達が、雨宿りをしているのを見つけ、話し掛けてみた。
「やあ、君達も雨宿りかい?」
僕の声に気が付いた小鳥達が、僕の方を向いた瞬間、一羽の小鳥が大きな口の中に一瞬で消えて行った。
他の鳥達が慌てて飛び立つ中、僕は何が起こったのかわからなくて、小鳥を一瞬で消し去った物を見た。
そいつの目は、じっとコチラを見ていた。しかし、丸くなった顔を背け、細長い胴体を反転させると、違う木の枝に向かって行った。
「今のはなんだ?もしかして食べられた?!僕達を食べる生き物が居る?!」
僕の体に寒気が走った。それは羽が濡れたからではなく、恐怖という感じた事のない感情だった。
「は、早くここから離れないと…」
僕は水に濡れる事が、こんなに辛いとは思ってもいなかった。
「水浴びは、あんなに気持ち良いのに…」
幸いに雨はすぐに止んだ。太陽が顔を出し、濡れた羽を乾かした。
「あ~、気持ちいい~!ちょっと怖かったけど、やっぱり自由っていいな~!」
僕は少し元気になり、お腹が空いて来た。
「そういえば、まだ何も食べてなかったっけ?ゴハンはどうすればいいんだろう?」
ちょうどその時、目の前に鳥の集団が現れた。
「あの鳥達に聞いてみよう。あの~!すいませ~ん!」
一番手前に居た黒い鳥が、僕の声に気付いたのか、一直線に僕に向かって飛んできた。
「ゴハンはどこに…え?!」
僕がその鳥に質問しようとした瞬間、黒い鳥は、鋭いつめで僕を鷲づかみにすると、そのまま地面に向かって飛び続けた。
「い!痛い!痛い!離して!」
僕が暴れると、その黒いは鋭いクチバシを何度も僕の体に突き刺した。
それでも僕は爪から逃れようと、何度も羽をバタつかせた。
そのうち、僕の体が小さいのも幸いして、爪から外れたと思ったら、すぐに地面に激突した。
「羽が動かない…体中が痛い…、これが外の世界…?夢にまで見た自由…?こんなに痛いなら…苦しいなら、籠の中の方が良かった…、部屋の中が良かった…」
黒い鳥が近付いて来るのが見えた。鋭いクチバシが光って見えた。あの鳥は僕を食べる気だ。僕は気を失いそうになりながらも直感的にそう思った。
そして僕は気を失った。
少しして体が揺れている事に気付き、目が覚めた。その瞬間、
「い!痛い痛い!痛い!!」
片方の羽に、ちぎれるぐらいの痛みを感じ叫んだ。
見ると、僕を咥えて走っていたのは、鳥でもない。あの男性みたいに二本足でも歩いていない。
四本の足で走っている。
僕はこの生き物を見た事がある。窓の下の道を歩いていた。たまに塀の上で寝てたり、何かを咥えて走っていたり、あるときは鳥を咥えて…!
「こ!この生き物も僕を食べる!!?…
ハ…ハハハ……、も…もういいや…、死んでしまえば、痛みも苦痛も無くなる。ゴハンの事も何も考えなくてもいいんだから。
そうか…、自由になるってこういうことだったのか…。」
僕が諦めて、目を閉じた瞬間、
「コラ!あっち行け!!シッシッ!!」
誰かが、この生き物の前に立ち塞がり、棒のような物を振り回していた。
僕はふと、
「あれ?この声…」
もうあまり見えない目で、声の主を見た。
「あ…あの人だ。」
その事に気付いた時には、もう深い眠り落ちていた。
次に気が付いたのは籠の中だった。もちろんあの男性の部屋だ。身体中に白い布が巻かれてあった。
見覚えのある景色に、なんだかホッとした。
男性は、僕が狭い籠をイヤで飛び出したと思っているらしく、今居る籠は前より二倍は広くなっている。
僕は翼のケガが酷く、もう飛べないらしい。
でも、もういいんだ。飛べなくても安心して生きて居られるんだから。
それに、僕の隣には可愛いお嫁さんも居る。男性が、僕が1人では寂しいだろうと連れて来てくれたんだ。
今日も男性は僕に話し掛けて来る。何を言っているのかわからないけど、僕はいつもこう返事をするんだ。
「いつもありがとう。いつもゴハンをありがとう。いつもキレイな水をありがとう。可愛いお嫁さんをありがとう。助けてくれてありがとう。」ってね。
そして僕は気が付いたんだ。僕は『籠』の中に居たんじゃない。男性の『加護』の中に居たんだって。
おわり
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