情熱と冷静

1/1

196人が本棚に入れています
本棚に追加
/84ページ

情熱と冷静

「初めまして、円谷(つぶらや)ひなたです」 「おー、例の子だね。呼びつけちゃって本当にごめんねえ」 羽多野が応接室のイスを勧める。すると、ひなたは大同の方をちらっと見、すぐに顔を戻して、勧められたイスに座った。 「噂に違わぬ、クールビューティーだなあ。美人さんだ」 羽多野が大げさに言うが、そんなんじゃこの子はニコリともしねえぞ、と大同は心の中で、呟いた。 そしてその通りの、ひなたのぬるい顔。 相当の鉄面皮だ。 (俺でさえ、こんなに苦労してんだかんな) 腕を胸で組んで、ドヤっと言いたいところだ。 「さあ、いきなりで申し訳ないけど……」 羽多野が書類を広げる。それに合わせて、ひなたは机の上に置いてあったコーヒカップをすいっと横に避けた。 「まず、これ」 ひなたが少し前かがみの姿勢を取り、一番上に乗せてある書類を覗き込む。 「コンセプト……『情熱』と『冷静』、」 呟くように発した声。 「僕たち、会社がふたつあってね。それぞれ違うアプローチから不動産を扱ってるんだけど。見たとおり正反対のイメージ過ぎて、CM作るのめちゃくちゃ苦労してるんだ」 「別々って選択は?」 「ないよ。元々ひとつだったからね。喧嘩別れしたって思われたくないし」 羽多野の説明を聞きながら、ひなたは書類に目を通していく。 大同はひなたの隣から、その横顔をそっと窺い見た。 半分だけ伏せられたまつ毛。やはりまばらのようだ。よく見ると、眉毛も薄い。化粧をしているようにも見えるし、していないようにも見える。 (元々、顔の造りが良いんだよな) 切れ長の目は、日本人には珍しく少し奥へと落ち込んだくぼみにあり、それが和のテイストを決定づけているが、まったくの和風でなく、洋風の要素も含んでいる。鼻は文句のつけようがないくらい細く高く、唇は薄いが艶やかで形がいい。 (アジアンビューティーとも言える……けどなあ、この細っこさったら) 病気ということもあり仕方がないが、ひょろっとしていて凹凸がまるで無い。 ボンキュッボンのグラマラスな体型が好みの大同には、そのひなたの体型は自分の範疇どころか、視界にも入らない。 いつもだったら。 (乳がんって病気のこともあるからな) 「おい、大同?」
/84ページ

最初のコメントを投稿しよう!

196人が本棚に入れています
本棚に追加