196人が本棚に入れています
本棚に追加
/84ページ
一から作り直す
ひなたをじっと見つめてしまっていた自分に気づく。
「あ? なんだ?」
「……ちゃんと話を聞いてよー。見惚れてないでさあ」
「あ、いや、俺はだなあ、」
「はいはい、いいからちゃんと聞きなさい!」
わかったわかった、大同が子どものようにため息を吐きながら佇まいを直すと、隣でひなたがぷっと吹き出した。
(お、ヒット?)
「でさ。どう思う? 僕たちの会社のイメージ。真反対過ぎてどうしよっかって感じでしょう」
羽多野の言葉を聞きながら、大同はコーヒーカップを手にした。
ひなたは書類を取り上げた。
「あのCM見てくれたんだよね? どう思った?」
羽多野が改めて訊いた。
「カッコイイなって思いました。スタイリッシュっていうか、綺麗にまとまってて、」
「でも、それだけって感じだったんでしょ?」
「……はい、」
机の上に書類を戻す。
「……あの、それより」
ひなたの顔が曇る。
「すみません」
ぽつり、と謝った。
一瞬、静寂に包まれ、慌てて羽多野が言う。
「え、なにがどうして、」
「お、おう、なんで謝んの?」
大同も。
「素人が偉そうに大企業のCMに口出ししちゃって、」
「いやあ、そんなことないない」
「それに……作り直すことになるなんて思わなかったから」
「それはだねえ、なんて言っていいかわかんないけど……まあいいや。こいつのせいにしちゃおう。なんでもかんでも大同のせいね。ひなたちゃんは全然悪くないから」
羽多野が苦笑いで立ち上がり、部屋の壁際に設置してあるカウンターへと向かう。コーヒーサーバーを取ると、ひなたのコーヒーカップにお代わりのコーヒーを注いだ。
「ありがとうございます」
作業をしている羽多野の代わりに、大同が話し始める。
「あのな。言ってもらって良かったんだよ。実はあのCM、社員には評判良くてさ。あれ、丸く収まってるってか、そこそこ上手に出来てるから」
「……はい」
「だから、オッケー出しちまったけど。『そこそこ』じゃあ、だめなんだよな。まあ俺もなんか物足りないって言うか、そういうのは感じてたんだけど、口にする勇気が出なくてな」
「いつもはずけずけ言う大同にしては珍しく、ね。こいつ、後からぶつくさと言うもんだからさあ」
「お前もあの大型ビジョンで見た時、首を捻ってただろ?」
「まあ、そうだけど……」
「そんなわけでな。次は、みんなに立ち止まって見てもらえるような、良いものを作りたい」
大同が芯のある声で言う。
「だから、ひなちゃんに協力してもらいたいんだ」
最初のコメントを投稿しよう!