見かけ通りの人

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見かけ通りの人

「あれえ、大同さん、お久しぶりですねえ」 店の奥から出てきたのは、愛想の良い女性店長。 「あらー、また可愛い子連れちゃって。相変わらずお盛んですね」 「いやいやいや。なに言ってんの。はは、サオリさんはいつもそうやって俺のことを貶めるんだから」 「ええ? 真実を言ってるだけですよ」 そう笑いながら、店長がマネキンに着せてある服の歪みを直す。店内にはたくさんの洋服が整然とハンガーに掛けられている。 ここは大同が普段からよく利用しているセレクトショップ「りく」だ。メンズとレディース半々くらいの割合で置いてあるので、恋人とのショッピングにはうってつけの店。大同も新しく恋人ができると、一緒に寄ることもあった。 そして、この女性店長サオリは、そのキレる審美眼でアパレル業界でも有名だ。飲み仲間の鹿島社長の元恋人の花奈が、自分のことのように自慢してたのも耳にしている。 置いてある服も値段は多少高くつくが肌触りもよく、何と言ってもデザインセンスが抜群だ。流行も取り入れつつ、ぶれない路線を歩いていて、大同はいつも感心しながら洋服を選んだ。 「この人には気をつけた方が良いですよ」 サオリが、ひなたの耳元に顔を寄せる。 「いつも違う女性を連れてくるんですから。あれです、オオカミってやつです」 笑う。 「ちょ、ちょっとサオリさんっ」 いつもは感じない焦りのようなものが湧き上がってきて、大同は苦く笑った。 「余計なこと言わないでよ」 ひなたの様子をちらっと窺い見る。 すると、それは本当ですか? いえ本当だったんですね、というような複雑な顔を寄越してくる。 大同は深いため息をつきながら、両手を上げて降参のポーズで言った。 「いやいや、そんなチャラくねえし。そんな目で見んのやめて」 「そうですか? 見た目通りだなって思っただけで」 「ほらあ、サオリさんが余計なこと言うからあ。この子はそんなんじゃねえから」 「ははは、すみません。いつも連れてくる女性とタイプが違うし、真面目そうなお嬢さんだから念のため」 慌てて大同が口を出す。 「念のためて! 一応この子は仕事関係の人だからな。さあ、それより服! 服選んだってよ」 「モデルさんですか?」
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