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ダイヤモンドに射す色
「え、」
大同は思わぬ提案に、二の句が告げられなかった。
「……えっと、すみません。やっぱダメっすよね」
頭を掻きながら苦笑いをするのは、若手でもファッション界ではその名を広く知られている美容師の滝田だ。
市内の高級住宅地に建つ美容院「taki」の経営者でもあり、トップスタイリストでもある。
大同も時々ここで髪を切っているのだが、比較的女性向きの美容院ではある。
滝田はハサミやコームが挿してあるベルトを腰の位置で直すと、目の前に座っているひなたの髪をさわさわと触った。
ひなたは大きな鏡の前で、首からのケープを巻き付けられて、ちょこんと座っている。
美容院なので、もちろんいつも着けているウィッグも取っているわけだが、それでもひなたはそんなことは平気、まるで気にしないという顔で大人しく鏡の前に収まっている。
セレクトショップで洋服を何着か購入し、カメラマンに写真を撮ってもらってから、この美容院に移動したのだが、今のところひなたに疲れの色は見えない。
ひなたの病気のこともあるので、大同は何度も大丈夫かと声を掛けたり、休憩を取ったりはしていた。
「絶対! もう一度、声掛けてくださいよっ」
馴染みでもあるカメラマンの鮫島が、セレクトショップ「りく」で、軽く興奮しながら去り際に言った。
「美容院って、滝田さんとこ行くんでしょっ。できあがったらそこで、もう一回撮影するんでっ」
「え、でも、服はまだ持っていかねえぞ」
サオリがもう少し、小物を考えさせてほしいと言うので、ショップに当分の間、預けることになっている。
大同がそう言うと、鮫島がカメラを手早く片しながら言った。
「服なんていらねえっす。顔……顔とあと、雰囲気を撮りたいんでっ」
「顔、ってのはわかるけど、雰囲気ってなんだよ?」
疑問を口にしたが、それを無視して鮫島は言い放った。
「二時間くらいっすよね? 直ぐに次の仕事やっつけてまた来るんで。帰っちゃだめ! その前に終わりそうになったら、絶対に連絡してくださいよっ」
荷物を抱えてガバッと立ち上がり、ドアへと突進する。自動ドアにぶつかりながら、急いで出て行く鮫島を見て、サオリが怒り心頭だ。
「ちょっとお、私の店を壊すんじゃないよー! 弁償させるぞ、こらあ!」
その時。
大同の背後で、ころころと転がるような声がした。
振り返ると、ひなたが笑っている。
「ふふ、はは」
第一段階の小さな笑顔は、数回見た。笑った声まで聞けたのだから、これは、第二段階の笑顔だ。
(ああ、やっぱ美人だなあ)
ダイヤモンドのように、ひやりと冷たく透明だった宝石に、少しだけ色が射したような気がした。
そして、その心地の良い気持ちを持ったまま、滝田の経営する美容院へとやってきたのだったが。
滝田の、この提案。
大同は狼狽えた。
「さすがに……それは……ちょっと。女の子だしなあ」
「ですよねー……っと、気にしないでください」
(滝田くんが言うなら間違いなく、カッコ良いんだろうけど)
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