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内に秘めた炎
アップになる。ひなたの瞳が映し出され、そしてそのまま横顔へとカメラアングルが移動する。
じっと、真っ直ぐ前を見つめる瞳。横顔に浮かぶその瞳が、数秒。
落ち着き払ったその瞳が、どこかから『冷静』のイメージを連れてくる。
「これが、ハタノのイメージだね」
羽多野が、静かに言った。
そして、再度、ひなたの顔を正面に捉える。
そこで、ひなたの表情が緩む。ふと唇も緩め、そして。
引いていくカメラに向かって、腕を伸ばしたかと思うと、その腕を回して自分を抱き締めた。
炎のようなワンピース。内から匂い立つような熱さ。
『情熱』。
羽多野がこれだと譲らなかったワンピースが、ピタリとハマった瞬間だった。
「MJ、だ」
そして、『ハタノ&MJパートナーズ』の文字が、浮かび、踊り、そして、すっと消えていく。
腕を下ろして立ち尽くしていたひなたが、後ろを振り返りながら、去っていく。
ひなたがフレームアウトすると、再度『ハタノ&MJパートナーズ』の名前と会社概要。
そしてラスト。かき鳴らされるチェロ。早馬のように駆け上がり、盛り上がっていく旋律。
唐突に、ひなたの姿。カメラがズームアップしていき、その瞳を捉えた時。ひなたの、なんとも言えない力強い表情があった。
それを遮断するかのように、そっと。
目を閉じた。白のつけまつ毛が、ゆっくりと、十分すぎる時間をかけて。
そして画面は真っ白に。盛大にかき鳴らされていたチェロの旋律は、そのなりを潜めていった。
羽多野が抑えた声で言った。
「凄いね、凄い」
大同もそれに応える。
「そうだな、凄いインパクトだ」
そして視線を戻すと、もちろん。
そこには大型ビジョンを見上げながら、足を止めている人が、まばらにだが、確かに居た。
(よっしゃ)
大同は、心の中でガッツポーズをしてから、ひなたを見た。
ひなたは、まだ大型ビジョンを見つめている。
そして、再度チェロの旋律が流れ始める。
「あ、またやるよ、見て見て」
「すごい綺麗」
「ちょ、待って。撮る撮る」
立ち止まって見ていた数人の女性が、慌ててスマホをかざしている。
(これが拡散されれば、ひなちゃんは即、有名人だな)
「うわ、綺麗ー。外国人かな」
「ハーフじゃない?」
その女性の中の一人が、こちらに視線を寄越したのに気づく。
「あれ、あの子?」
大同は、直ぐにひなたの側によって、肩を抱いた。
「ひなちゃん、行こう」
ひなたは、ぼうっとしていたのか、ぱちぱちと数回、その薄いまつ毛で瞬きをすると、こくんと頷いてから大同に連れられるようにして、歩き始めた。
「羽多野、後で連絡する」
おーう、声を背中で聞きながら、大同はタクシーを止めるために左手を上げた。
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