女の子らしく、可愛らしい

1/1

196人が本棚に入れています
本棚に追加
/84ページ

女の子らしく、可愛らしい

「水族館には、前から行きたかったの?」 「はい、普通のこともしてみたいなって思って」 「別に、これからだってじゃんじゃんやれば良いんだからさ」 「そうですね」 握りしめていたチケットを、隣に立つひなたに一枚渡す。入り口でスタッフが開館のスタンバイをし始めたからだ。 渡しながら、大同は何の気なしにという態度で、ひなたに問い掛けた。 「あのさ、俺みたいなおじさんとデートだなんて、彼氏とか怒んない?」 「いませんよ、彼氏なんて」 「でも、モテるだろ?」 「大同さんみたいにはモテませんよ」 ぶっ、と吹き出して、ひなちゃん勘弁してよ、と言う。 (あーあ、またこの展開かあ。チクっと言ってくんなあ) 苦笑いを噛み締めてから、大同は言った。 「俺だって、そんなには……」 「髪が抜け始めた時に別れたんです」 「えっっ」 「お坊さんみたいって。顔もまるで幽霊みたいだなって言われて」 ひなたは、背負っていたリュックを下ろすと、ジッパーを開けて中をごそごそとさぐりだした。 「向こうも付き合うならもっと女の子っぽい子が良いって言うんで。だから、もうダメだなって思って」 「ちょ、それ酷くねえか」 「そうですか? 誰だって、可愛い子の方が良いでしょ」 「そういうのにこだわるヤツもいるだろうけど……」 「はい、でも女の私でも、女の子は可愛い方がいいって思うから。この前のお姉さんたちも柔らかくて優しくて……女性らしいなあって」 「そりゃ、あの子たちはそれが仕事だから」 リュックから財布を出す。ガマ口をパクッと開けて中から千円札を二枚出した。 「これ、入場料です」 大同は慌てて、手をあげる。 「いやいや、いいよ。これくらい、俺が出すし」 「……でも、」 「俺が誘ったんだし、もちろん今日のデート代は俺が出すから。おっさんにも花を持たせてくれ」 その大同の物言いに、小さく吹き出したものの、ひなたは顔を歪めた。 「じゃあ、飲み物くらいは出させてください。後で、何か飲みましょう。その時に」 「うん、じゃあそんな感じで」 新鮮な気持ちになった。奢られるのが当然という女としか、大同は付き合ったことがなかったからだ。 (なるほど、どっちかっていうと小梅ちゃん寄りだなあ。しかし、まだこんな子もいるんだ……本当に、何もかもが違う) スタッフの、お待たせしましたー、の声が響く。 前に向き直って、リュックを背負い直すひなたの横顔。頭二つ分、背の高い位置から見下ろすと、まばらなまつ毛が少し、生え揃ってきているのが見えた。 CMの撮影の時は、美容部隊のモエが張り切って、つけまつ毛を施していた。 「ちょ、マジで似合う」 モエが鼻息荒く、興奮して言った。 「めっちゃ似合うよー、ひなたちゃんっっ」 側で雑談していた大同が、その声で反応して、ひなたを見る。真っ白のつけまつ毛に、大同が驚きながら、訊いた。 「ナニコレ、白いんだけど。こんなん売ってるんだ」 「ネットで見つけたんですよー。コスプレ的なグッズだと思いますけど」 「モエちゃん、キミ、天才」 「マジですかー」
/84ページ

最初のコメントを投稿しよう!

196人が本棚に入れています
本棚に追加