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女の子らしく、可愛らしい
「水族館には、前から行きたかったの?」
「はい、普通のこともしてみたいなって思って」
「別に、これからだってじゃんじゃんやれば良いんだからさ」
「そうですね」
握りしめていたチケットを、隣に立つひなたに一枚渡す。入り口でスタッフが開館のスタンバイをし始めたからだ。
渡しながら、大同は何の気なしにという態度で、ひなたに問い掛けた。
「あのさ、俺みたいなおじさんとデートだなんて、彼氏とか怒んない?」
「いませんよ、彼氏なんて」
「でも、モテるだろ?」
「大同さんみたいにはモテませんよ」
ぶっ、と吹き出して、ひなちゃん勘弁してよ、と言う。
(あーあ、またこの展開かあ。チクっと言ってくんなあ)
苦笑いを噛み締めてから、大同は言った。
「俺だって、そんなには……」
「髪が抜け始めた時に別れたんです」
「えっっ」
「お坊さんみたいって。顔もまるで幽霊みたいだなって言われて」
ひなたは、背負っていたリュックを下ろすと、ジッパーを開けて中をごそごそとさぐりだした。
「向こうも付き合うならもっと女の子っぽい子が良いって言うんで。だから、もうダメだなって思って」
「ちょ、それ酷くねえか」
「そうですか? 誰だって、可愛い子の方が良いでしょ」
「そういうのにこだわるヤツもいるだろうけど……」
「はい、でも女の私でも、女の子は可愛い方がいいって思うから。この前のお姉さんたちも柔らかくて優しくて……女性らしいなあって」
「そりゃ、あの子たちはそれが仕事だから」
リュックから財布を出す。ガマ口をパクッと開けて中から千円札を二枚出した。
「これ、入場料です」
大同は慌てて、手をあげる。
「いやいや、いいよ。これくらい、俺が出すし」
「……でも、」
「俺が誘ったんだし、もちろん今日のデート代は俺が出すから。おっさんにも花を持たせてくれ」
その大同の物言いに、小さく吹き出したものの、ひなたは顔を歪めた。
「じゃあ、飲み物くらいは出させてください。後で、何か飲みましょう。その時に」
「うん、じゃあそんな感じで」
新鮮な気持ちになった。奢られるのが当然という女としか、大同は付き合ったことがなかったからだ。
(なるほど、どっちかっていうと小梅ちゃん寄りだなあ。しかし、まだこんな子もいるんだ……本当に、何もかもが違う)
スタッフの、お待たせしましたー、の声が響く。
前に向き直って、リュックを背負い直すひなたの横顔。頭二つ分、背の高い位置から見下ろすと、まばらなまつ毛が少し、生え揃ってきているのが見えた。
CMの撮影の時は、美容部隊のモエが張り切って、つけまつ毛を施していた。
「ちょ、マジで似合う」
モエが鼻息荒く、興奮して言った。
「めっちゃ似合うよー、ひなたちゃんっっ」
側で雑談していた大同が、その声で反応して、ひなたを見る。真っ白のつけまつ毛に、大同が驚きながら、訊いた。
「ナニコレ、白いんだけど。こんなん売ってるんだ」
「ネットで見つけたんですよー。コスプレ的なグッズだと思いますけど」
「モエちゃん、キミ、天才」
「マジですかー」
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