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遠くに見つめるものは
「ごめんなさいね、ひなたさん」
運営側の代表者の女性が、軽く頭を下げてきた。ひなたは慌てて、両手を上げて、少し振る。
「そんな、全然大丈夫です」
「ネットでも噂になっている『ヒナ』の話題性はわかっているんだけど、他のモデルさんたちの手前ね」
女性は今回のショーのプログラムを手元でパラパラとめくった。
「ここ、ここに『今、話題のヒナが登場』みたいな煽り文句でもつけられれば、もっとメディアに注目してもらえたのかもしれないけど」
そこには、リイナの名前と並んで、モデル『ヒナ』としか、印刷はない。
「いえ、私まだ全然、新参者なので。当たり前です。それに、」
ひなたは、薄っすらと笑みを浮かべて、言った。
「リイナさんたちに歩き方とか教えてもらったり。勉強になりました」
「そう、それなら良かったけど。サオリさんにも頼んでおいたんだけど、またこういう機会があったら、よろしくね」
「はい、ありがとうございました」
着替えた服をサオリのスタッフに預けて、帰り支度をすると、ひなたはエレベーターでホテルのロビーまで降りた。
ロビーへの入り口で、ふと足を止める。
ソファなどが並ぶスペースの近くに、ひときわ目を引く大同の姿を見つけたのだ。
(あ、匠さん、来てくれてたんだ)
女性二人と、立ちながら談笑している。あはは、と大きな大同の笑い声が響いてきて、ひなたの足が竦んだ。
女性は二人とも背が高く、すらっとしてショーに出演したモデルにも匹敵するくらいのスレンダー体型。ショーの客なのだろう、そう思うくらい着ている装いが艶やかだ。
大同が何かを言うと、二人がそれにつられたように笑う。その中でも一人の女性が、スラックスのポケットに手を入れている大同の腕にそっと手を掛けている。
(匠さん、モテるなあ)
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