淡い色の瞳

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淡い色の瞳

「なあって、もういいだろ?」 「まだだめ」 その言葉で、大同はイラッとして、足を鳴らした。先ほどから視界は遮られている。 「ひなちゃん、意地悪すんなよなー」 「意地悪してるわけじゃないんだけど」 「早く見せて」 「だあーめ」 「なあ、今日は晴れの舞台、大事な大事な結婚式なんだぞ」 「そうだけど、だめー!」 さっきから手で目隠しされている大同が、その白い手を握り返した。 (……相変わらず、細っせーな) 思いながら、自分の顔からぐいっと引っぺがす。けれど、目は瞑ったままだ。ひなたにまだ見たらダメだと言われている。それこそ忠犬のごとく、後ろも振り返らずに、大同は文句を言った。 「なあ、今日は俺らにとって大切な日なんだぞー」 「わかってるってばあ」 「じゃあ、早く見せてよ」 「……わかった。じゃあいくよ。いち、にい、さん! ジャジャーン!」 大同が振り返ると、ニャアという鳴き声と、一発の猫パンチ。 「いっっ、てえ」 パンチをくらった頬をさすりながら、目の前でダランと伸びた身体を晒している猫の顔をまじまじと見る。白地に黒の毛が混じる、いわゆるブチだ。 「……んー、ナンダコレ」 「ナンダコレ、って」 「いやあ、ブサイクとも言えねえが、可愛いとも言えねえ」 「そんなこと言ったら可哀想だよ、女の子なのに」 「初めて会った男に、いきなりパンチだよ⁉︎ そんなの女って言えるう?」 「チビちゃんの奥さんになる人にっ」 「まあ、そうだけど……」 大同が、ぶうっと口を膨らますと、ひなたが笑った。 「ふふ、匠さん、嬉しくないの?」 「嬉しいよ、嬉しいに決まってる! だって、ようやく嫁さんが決まったんだからな」 「でしょー?」 「子ども、何匹欲しい?」 「匹って! 言い方っ!」 「えええ、そこ突っ込む? だって、猫だから一匹二匹の数え方で間違ってねえだろ?」 「そうだけど……それにしても、お見合い決まってよかった」 「チビ助がなあ、女を選り好みしやがるから」 「誰かさんにそっくりだね」 「こらあああ、ひなたあああ」 猫を抱いて逃げようとする身体を後ろから抱き締める。 「待てっ、そんなこというヤツはこうしてやる」 白いうなじに唇を這わせて、パクッと食らいつく。 今はまだ。短い髪が邪魔をせず、そのうなじに容易にキスができる。そこに唇を押しつけて、軽くちゅと吸った。 「あはは、くすぐったいってば」 大同は腕を回して、次には頬に手を当てる。強引に後ろを向かせて、今度はひなたの唇にキスをする。 「俺の好きなひなちゃんをー……こうやって食ってやる!」 大同が笑いながら、所構わずにキスをする。 ひなたは、その大同のしつこいほどのキスを、抱っこした猫でかわしていく。 「お願い、猫ちゃんっ! 猫パンチ出してっっ」 そして、ずいっと猫を大同の顔に押しつける。 ニャアっと鳴き声をあげながら、嫌がる猫の後ろ足が、大同の頬にバシッと当たった。 「いっ、てええええ」 「あはははっ、ナイスキックーーー!」 淡い色の瞳が。 やんちゃな悪戯っ子のように、笑った。
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