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〜after story〜
「明日のステージ、俺がリボン結んでもいい?」
昨夜、ひなたの恋人である大同がベッドの中でそっと右腕に手のひらを滑らせてきた。
「でも匠さん、明日はお仕事なんじゃ……」
「ふふん、そんなの祝日にしてもいいんだからなー」
得意そうに大同が笑う。
大同は中堅の不動産管理会社の社長だ。多少横暴ではあるがもちろんそういうことにも融通が利く。それこそ鼻高々な言い方に、ひなたは苦笑した。
「祝日だなんて、」
「何言ってんの。明日は記念すべき、『ヒナ』復活の日なんだぞ。もちろん、鹿島たちも来るしな」
「そういえば、小梅ちゃんからもライン来てた」
「だろー。俺が大々的に宣伝しておいたからなー」
「うわあ、緊張する。めちゃプレッシャー」
大同がニヤニヤしながら布団の中で顔を近づけてきて、ひなたの頬に軽くキスをした。
「それが緊張してる顔かあ?」
ひなたの表情筋の少ない顔を、大同が両手で包み込む。
「でもまあ、ひなちゃんなら大丈夫だろ。俺がついてる。ちゃんと客席、最前列で陣取ってるかんな」
そして、大同は次にはひなたのおでこにキスをした。ひなたは、ふふと笑う。その笑った唇をぱくっと食べる。大同はしっとりと、ひなたの唇を吸った。
(……匠さんが、ステージで待っていてくれる)
貰ったバンドエイドをポーチに入れる。少しでも慣れるためにと、パンプスは脱がずに部屋を出た。廊下を歩く。カツンカツンと音がする度に、かかとに痛みが走った。
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