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思いも寄らぬ出逢い
ひとり。女性が立ち止まり、ビルの屋上近くに設置してある大型ビジョンをじっと見つめている。
(……まさか、先客とはな)
大同 匠は少しだけ距離を置き、その女性を見た。
服装は小綺麗だが流行りのものでもなく、ロングスカートに白の長袖ブラウスが大人びた雰囲気を醸し出しているが、まだ『少女』の域を脱してはいないようだ。
髪型はあごのラインまでのストレート。艶のある栗色で、さらさらと風に揺れている。
ただ。
女性の見た目に、多少の違和感。
(多分あれ、ウィッグだろ……)
そして。ブラウスの袖の長さが少し長すぎることにも気づく。それだけではない。よく見ると、スカートの丈も長い。そう背は高くない女性の細い腰に引っかかるようにして履かれている。
(服のサイズが合ってないよなあ。いったい何だろうな、なんであんなぶかぶか着てるんだ?)
だがそれよりなによりも、その凛とした横顔。視線は一点に注がれ、集中しているようだ。その視線が食い入るように見つめるのは、大型ビジョンで流されている自社のプロモーション動画。いわゆるCM。
大同は思った。じっと見るその横顔は、『侍』。なぜか日本の武士を連想させて、そう思った自分に驚いた。いやいや、どう見ても可愛い女の子だぞ? なんで日本の武士なわけ?
大同が視線を外せずにその場に突っ立っていると、女性はその視線に気づいたのか、ちらと大同の方へと目をやった。
視線が合った。
きっと不躾に見入ってしまっていたのだろう。ばちっとかち合った突然の視線に胸が鳴った。視線は逸らさなかったが、心の中では動揺が渦巻いている。
「あぁ、えっと……えっとぉ」
女性の表情は。
むっとしているようにも見えるし、そうでないようにも見える。一見は横顔同様、真正面からでもクールなサムライジャパンだ。
大同は慌てて、頭に手をやりながら数歩、彼女に近づいた。
「あのさ、これ、気に入った?」
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