第2話

1/1
前へ
/4ページ
次へ

第2話

     休み時間。  教室の前の方で騒ぐ、女子たちの声が聞こえてくる。 「デート? 違うよ、ただ彼の家へ遊びに行くだけ。立派なお屋敷に、一人で住んでるの!」 「それって、彼氏と家で二人きり、ってこと……?」 「うん! 二人でおしゃべりしてると、あっというまに時間が過ぎちゃって……」 「合田さん、大丈夫なの? 部屋で二人だけになると、男って、色々求めてくるでしょう? それとも、もうとっくに……?」 「大丈夫だよ! 彼ったら、とっても紳士的でね。手を握ることすら、遠慮しちゃうくらい!」  いつのまにか合田さんは、派手な女子グループと付き合うようになっていた。  こうして休み時間も、読書ではなく彼女たちと話をしているし、最近では(うっす)らと化粧をしているようにも見える。 「合田の雰囲気、変わったよな。きれいになったと思わないか?」 「わかる、わかる。あれだったら、俺も付き合いたいくらいだぜ」  と、合田さんについて噂する男子も現れ始めた。今まで彼女のことなんて、見向きもしなかったのに。 「カースト上位グループに入ると、それだけで変わるんだな、女って……」 「いやいや、逆だぞ。合田の雰囲気が変わったからこそ、派手な女子たちも、合田の相手をするようになったんだろ?」 「じゃあ、何が合田を変えたんだ?」 「彼氏が出来たらしいぜ。ああ見えて、やることやってんだろうな。ギャハハ……」  合田さんが下衆(げす)な噂話のネタにされるのは、我が事のように腹立たしかった。  そもそも、みんなは彼女のことを、きちんと見ていないではないか!  真面目に観察していたならば、彼氏が出来たとか出来ないとか以前に、もっと話題にするべき点があるだろうに……。  彼女のヘアピンだ。  男の人からのプレゼントだという、大切な髪飾り。  噂に出てくる『彼氏』というのが、合田さんの言っていた『男の人』に違いない。  最初の日に宣言した通り、あれから毎日、彼女は同じヘアピンを頭につけて登校している。  そう、同じヘアピンのはずなのだが……。  合田さんを常に見守っている僕は、気づいてしまった。  ヘアピンの蕾が、毎日少しづつ、花ひらいていることに。  理屈で考えたら、ありえない話だろう。  ヘアピンの花は、しょせん飾り物だ。生きた花ではないのだから、咲き開くような変化を見せるはずがない。  ならば、実は同じヘアピンではなく、微妙に違うのだろうか。例えば「開花シリーズ」みたいな、開花の過程を段階的に模した一連のアクセサリーがあって、それを順番につけているのだろうか。  でも、その可能性は、彼女自身によって否定された。 「合田さん、いつも同じ髪留めね」 「うん! 初めてのプレゼントだから、とっても思い入れがあって……」  そんな会話が聞こえてきたのだ。ならば、やはりあれは、最初の日――僕が彼女と言葉を交わした日――と同じヘアピンに違いない。  これは一体どういうことなのか……?    
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加