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第2話
休み時間。
教室の前の方で騒ぐ、女子たちの声が聞こえてくる。
「デート? 違うよ、ただ彼の家へ遊びに行くだけ。立派なお屋敷に、一人で住んでるの!」
「それって、彼氏と家で二人きり、ってこと……?」
「うん! 二人でおしゃべりしてると、あっというまに時間が過ぎちゃって……」
「合田さん、大丈夫なの? 部屋で二人だけになると、男って、色々求めてくるでしょう? それとも、もうとっくに……?」
「大丈夫だよ! 彼ったら、とっても紳士的でね。手を握ることすら、遠慮しちゃうくらい!」
いつのまにか合田さんは、派手な女子グループと付き合うようになっていた。
こうして休み時間も、読書ではなく彼女たちと話をしているし、最近では薄らと化粧をしているようにも見える。
「合田の雰囲気、変わったよな。きれいになったと思わないか?」
「わかる、わかる。あれだったら、俺も付き合いたいくらいだぜ」
と、合田さんについて噂する男子も現れ始めた。今まで彼女のことなんて、見向きもしなかったのに。
「カースト上位グループに入ると、それだけで変わるんだな、女って……」
「いやいや、逆だぞ。合田の雰囲気が変わったからこそ、派手な女子たちも、合田の相手をするようになったんだろ?」
「じゃあ、何が合田を変えたんだ?」
「彼氏が出来たらしいぜ。ああ見えて、やることやってんだろうな。ギャハハ……」
合田さんが下衆な噂話のネタにされるのは、我が事のように腹立たしかった。
そもそも、みんなは彼女のことを、きちんと見ていないではないか!
真面目に観察していたならば、彼氏が出来たとか出来ないとか以前に、もっと話題にするべき点があるだろうに……。
彼女のヘアピンだ。
男の人からのプレゼントだという、大切な髪飾り。
噂に出てくる『彼氏』というのが、合田さんの言っていた『男の人』に違いない。
最初の日に宣言した通り、あれから毎日、彼女は同じヘアピンを頭につけて登校している。
そう、同じヘアピンのはずなのだが……。
合田さんを常に見守っている僕は、気づいてしまった。
ヘアピンの蕾が、毎日少しづつ、花ひらいていることに。
理屈で考えたら、ありえない話だろう。
ヘアピンの花は、しょせん飾り物だ。生きた花ではないのだから、咲き開くような変化を見せるはずがない。
ならば、実は同じヘアピンではなく、微妙に違うのだろうか。例えば「開花シリーズ」みたいな、開花の過程を段階的に模した一連のアクセサリーがあって、それを順番につけているのだろうか。
でも、その可能性は、彼女自身によって否定された。
「合田さん、いつも同じ髪留めね」
「うん! 初めてのプレゼントだから、とっても思い入れがあって……」
そんな会話が聞こえてきたのだ。ならば、やはりあれは、最初の日――僕が彼女と言葉を交わした日――と同じヘアピンに違いない。
これは一体どういうことなのか……?
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