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第1話
僕の高校は、他の学校よりも、校則が厳しくないのかもしれない。
男子だから今まであまり意識していなかったが、女子の服装などに関して、普通は細かく禁止事項が記されているのだという。
例えば、髪飾りだ。髪ゴムやヘアピンは、おしゃれ目的ではなく、あくまでも髪を留めるためだから、黒一色に限定。学校によっては、髪ゴムは許されているけれど、ぶつかって刺さる可能性を考慮してヘアピンは禁止、というところもあるらしい。
でも僕の高校には、そのような規則は記されていない。だからクラスの女子たちの中には、可愛らしい髪飾りをつけて学校に来る者も多い。
それを僕が意識し始めたのは、彼女がある日、ヘアピンをつけて登校してきたからだ。
僕の斜め前に座る、合田蕾美さん。
黒髪と眼鏡が似合う、おとなしい少女だ。休み時間も友だちとワイワイ話すのではなく、一人で文庫本を読んでいる。目鼻立ちものっぺりとしており、まさに「地味」という言葉を体現しているタイプだが、その雰囲気を僕は好ましく思っていた。いわゆる「地味かわいい」というやつだろうか。
そんな合田さんの前髪にヘアピンが差さっていたので、僕はたいそう驚いたのだった。
その日の合田さんは、休み時間も読書ではなく、ぼうっと窓の外を眺めていた。何か幸せな出来事を思い出しているかのような、うっとりした表情になっている。
思い切って、僕は彼女に声をかけてみた。
「珍しいね。合田さんが、ヘアピンだなんて」
「……これのこと?」
いつものような遠慮がちな声で、頭に手をやる合田さん。
幸せを感じさせる表情が、いっそうの笑顔になる。見ているこちらまで、心が温かくなるほどだった。
「そう、そのヘアピン。素敵だよね。よく似合ってるよ。『蕾美』という名前に合わせたんでしょ?」
彼女のヘアピンには、薄桃色の花が四つ並んでいた。ただし、咲き開いた花ではなく、どれもまだ蕾の形状だ。
僕はアクセサリーには詳しくないが、こういう『花』ならば開いた状態が普通だと思っていたので、特に珍しく感じたのだった。
「……たぶん、そうだと思う。私が買ったんじゃないから、わからないけどね。これ、もらいものなの」
誰からもらったのか。そう聞きたい気持ちはあったが、言葉にならず、少し躊躇する。
そんな僕の内心を察したのか、あるいは、ただ彼女が語りたかっただけなのか。合田さんは、僕が促すまでもなく、こう続けた。
「男の人からプレゼントされるなんて、生まれて初めてだから……。大切にしてるの! 肌身離さず、頭につけとくほどに!」
男の人からプレゼント。
その言葉を耳にした瞬間、ズキッと胸が痛くなる。
同時に僕は、ようやく自覚するのだった。合田さんに対する「好ましく思う」という気持ちは、自分で思っていた以上に強かったのだ、と。淡い片想いのレベルだったのだ、と。
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