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乗り越えられない試練
恐くて聞く勇気が私にはない…
彼はあえて触れないのかそれとも別に何処か寄り道しただけなのか、何事も無かったかのように振る舞っている。
そして彼が、
真人『和代さん…さっきはすみません…あの…』
彼は何かを言いかけるがなかなか切り出せないようだ。
真人『あの…さっきの話しですが…』
彼の言葉を遮って私は先に切り出した。
私『真人さん…その前に…一つ教えて下さい…
清原さんの所へ行って…何かあったんですか?
どうしてもモヤモヤが消えなくて…すみません…』
彼は少し戸惑った様子を見せたが、
『和代さん、少し遅くなったことですね?
彼女の家に届けたついでに用事を済ませたのでそれだけですよ』
彼の言うことを信用するしか他にない。
私『そうだったんですね。私てっきり…彼女と何かあったのかとばかり…』
真人『和代さん…あなたの気持ちを聞かせて下さい…』
彼は神妙な面持ちでそう言った。
真人『僕と…僕と…付き合っていただけませんか?』
あなたは…いつからそう想ってくれてたの?
ずっと私の中でその言葉を期待してたのに…ずっと私の欲しい言葉を言ってくれなくて…毎日毎日切なくて…
こんな私が、私からあなたに想いを伝えることなんて出来なくて…凄く凄く切なかったのに…
いったい、いつからあなたは私を女として意識してくれてたの?
私がジッと彼の顔を見つめていると…
真人『和代…さん…僕はあなたのことが…』
彼は私を見つめたまま…そっと顔を近づけて来た…
夢なのかしら…
今私は夢の中にいるのかしら…
凄くフワフワして、私の魂が宙に浮いてるようなそんな感覚で…
とても今現実の世界に居るとは思えないほど不思議な感覚に包まれていて…
あの彼の…柔らかい唇の感触や…
彼の温かい温もりや…
彼の優しい愛撫が…
私の全てをとろけさせてくれて…
女として生きてきて、これほどの幸せな時間を味わったことがない…
彼と一つになった時間はまるで永遠のように感じられて…
私を天国へと誘った…
私と彼は…
身も心も一つに重なり合い…完全に結ばれたんだ…
たしかにこれは現実…隣には…彼が眠っている。
彼の腕の中に私は包まれている。
もう…私達を誰にも邪魔出来ない…私達だけの世界が生まれた。
その夜私は一睡もすることが出来なかった…
朝6時半に彼は目覚ましの音で起きた。
彼が起きるまでずっと彼の腕の中で彼の顔を見つめていたが、あえて私は眠っているふりをした。
彼は仕事に行く準備をしている。
私はずっと彼の姿を目で追っている。
そして彼が私の方へ歩いて来て…寝たふりをしている私の頬へそっとキスをした…
彼は支度を終えて家を出て行った。
私はこの幸せはきっとずっと続くのだと信じていた…
やっと神様は私が幸せになれることをお許しになったのだと思った。
もう二度と不幸な人生は来ないのだと思った…いや、そう信じたかったのだ…
もう二度と…彼とは離れることはないと…
それから数日何事もない幸せな生活が続いた。
彼はいつも優しく私を愛してくれた。
彼の愛に包まれて生きる喜びを味わった。
しかし…
やはり神様は幸せな時間だけを私に与えてくれることは無かった…
今までずっと辛く苦しい人生を歩んだ私に、無情にもささやかな幸せさえ奪っていく…
それが私の運命だと言うのか…
幸せな毎日を過ごしていたある日、神は私にとても乗り越えられない試練を与える。
私はいつものようにソファーで寛ぎながらスマホでいろいろと勉強していた。
玄関のチャイムが鳴り私はそっと玄関を開けた…
そして清原里見がそこに立っていた…
清原『こんにちは!和代さん!』
彼女は笑顔で私にそう言った。
私『こ…こんにちは…』
私は動揺しながら言った。
何故彼女が彼の居ないこの時間にここを訪れる必要があったのだろうか…
居ないとわかってて、しかもここに私が居ることを知っていて来たのだ…
いったい何をしに来たのか…
清原『ちょっとお邪魔しますね』
彼女はそう言って遠慮無くこの家に入ってきた。
勝手にソファーに座り呆然と立ち尽くす私に向かって
清原『和代さん、何故あなたはここに居るんですか?
何故あなたは彼と一緒に居るんですか?
あなたのような人が…彼と一緒に居られる意味がわかりません。
あなたのような人が彼に選ばれる意味がわかりません。
なぜ?』
小悪魔が意地の悪い目付きで私をじっと見つめる。
私を蔑むような目付きでじっと見つめる。
私は返す言葉を見つけることが出来なかった…
彼女はたたみかけるように言い放った…
清原『和代さん、橋の下から拾われたんでしょ?』
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