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青年には全く意味が分からなかった。助けてやったのに、何故こんな仕打ちを受けなければならないのか。
「アタシたち、心中するつもりだったの」
「…?」
「あの階段から落ちて、彼女と二人で死ぬつもりだった。心から愛し合ってたから。あと少しで永遠に一緒になれた。それなのに、あんたがアタシたちを引き裂いた。私だけが生き残ってしまった。だから、あんたに復讐しようと決めた。これでもかってぐらいの絶望を味わわせて、アタシたちと同じ思いをさせてやろうと思った」
「んっ、んっ」
やはり意味が分からない。何故、自分がそこまでされなければならないのか。青年は、自分は何も悪くないのにと思った。
「なんでこんなこと教えるのかって?それはね、これからもっと絶望してもらうためだよ」
嫌な予感が青年の心を満たした。背中を悪寒が走り抜ける。
「あんた、これから死ぬんだよ」
表情のなかった女の顔に、初めて笑みが浮かんだ。それは、悪意と愉悦に満ちた酷く歪んだ笑みだった。
青年は、現実を飲み込むことができなかった。
ただそこにあるのは、ずっしりとした黒い感情だけ。急に目の前が真っ暗になったように感じた。
何も見えず、何も聞こえないような気がした。暗闇の中にたった一人、立ち尽くすことしかできない。
呆然とする青年をよそに、引導は容赦なく、とてもあっけなく渡された。
「助けてくれて、ありがとう」
清々しい声が聞こえたと同時に、ブツッという音を立て、意識が途切れた。
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