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着替えてから、三人でお茶にした。
お茶受けはお母ちゃんが買ってきてくれた福島のお土産、ままどおるだ。
もうすぐ凪紗と真也が帰って来るから、このお菓子はきっと喜ぶ。
「そういえば、土地の問題は無事に解決したって聞いたけど大変だったんでしょう?」
私が聞くと、お母ちゃんが思わず苦笑しているような。ん?なんで?
「問題ない、あの借家に居座っていた会社は潰れてもらったから」
はいっ!?櫂、あっちで何をやってきたの!?
「言っておくが俺は直接手は下していない。緒方さんの話から外国人実習生制度の悪用が疑われたからそこの所を調べて、簡単に外国人の不法就労の証拠を掴んだ。で、それを警察やら入管(入国管理局)やらに渡しただけだ。『随分と職務怠慢な事例だ、これは検察庁への告発ものだ』と一言付け加えただけ。向こうは俺を勝手に検察のまわし者かと思ったようで大慌てで対応していたよ」
なんとなくわかった、確かに直接手は下して無い。
「これからもずっとあそこに住むんだからな、俺が余計な怨みを買うと家族に危険が及ぶ」
だからそういう手段を取ったと。櫂ってば本当に相変わらずだわ。
「まぁ…そういう事よ」
お母ちゃんが笑いを堪えてる意味が分かったわ。
「とりあえず契約は済ませて来た。金額をかなりまけてもらったから、土地代だけは手持ちの資金でなんとかなった。あとは上物の検討だ」
どういう形にするかとか、お父さんと相談ね。
「福島で話は結構煮詰めてきたんだ、父さんと母さんはあの家をそのままにしたいと言っている。階段リフトがあるから、歳を取っても住めるからな」
うん、お母ちゃんはあの家が好きだもんね。
「将来的に俺が師匠夫婦を引き取りたいって話は洸にはしてたけど、母さんと父さんにも了解はもらった。ただ師匠はああいう人だから、引き取れるのは相当後だろう。ただ、そういう気持ちではいてくれ。状況に寄るが敷地内に別棟を建てるのも良いと思っている」
「うん、もちろん」
大好きな莉緒菜おばちゃん、本当にいつ来てくれてもいい。
「土地を更地にする解体の業者や、土壌改良の件はおいおいにやっていく。どうせしばらくは週一で福島だ。業者に関しては隆成が相談に乗ってくれる」
「そうなのよね、櫂が大変だけど」
「問題ない。ただ、どんな家を建てても絶対に母さん達の家と俺の家は通路で繋げる。古いから壁を抜いたりはしない方がいいと父さんが言うから、せめて屋内の渡り廊下みたいな通路を作る。それは決定事項だから」
櫂にしては最大の譲歩だわ、棟続きの母屋と離れみたいな感じになるのね。
「資金の足らない所は住宅ローンだ。あとは頑張って行くよ」
「うん、私も頑張る」
絵本作家としての収入はそんなに大したものじゃ無いけど、何かしらの足しにはなってる。
この後の子供達の進路もあるし、本当に頑張らなきゃ。
「あとは父さんだな、土地をフェンスで囲うのは良いけどそこに電流を流せって譲らん」
あら、そのお話懐かしいわ〜
「その経費は全部自分が出すって言うけど、父さんもそろそろ仕事を控えて欲しいんだよ。あの年齢で月一アメリカじゃ俺たちが心配だ」
「そうなのよ、もう本国じゃ社長だったカールお兄さんが会長職に退いているし、これを期にアルも定年退職を考えてくれないかしら。福島の櫂の家が完成したら、拓海と一緒にお庭や畑のお世話を手伝ってくれれば良いと思うんだけど」
アメリカ人ワーカホリックとお母ちゃんにあだ名されているお父さんだ。一頃よりはアメリカに行く頻度はずっと減ったけど、それでも相変わらずお仕事で日本中を駆け回っている。
その合間にお家で子供達の面倒を見たり、拓海の畑を手伝ったりもしてくれている。
エルンストさんも日本に来る頻度はかなり減って、とっくにアメリカの本社で保安部の責任者の一人になっているのにお父さんだけは相変わらず忙しい。
「とりあえず今夜にでも父さんとちゃんと話しをしてみよう。チビも生まれるし、ちょうどいい機会だ」
今日は大阪の支社に出勤だから夕方には帰って来るわね。
「みんなで楽しく元気で暮らしたいものね、しっかりお話をしましょう」
お母ちゃんが言う。
もう色んな事が動き出しているから、後戻りは出来ない。
時の神様
どうか見守っていて下さいね。
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