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コトハの神楽
ハツの手足が動くごとに、俺の力が増していくのが分かる。
動作ひとつひとつにハツの心が見てとれた。
俺と初めて会った日の驚き。
毎日訪れる俺を香りの良い茶で出迎え、飽きないように毎日変えてくる茶菓子。
異国に行った日に見た「幸せを形にしたような」と言っていた桜を見た喜び。
俺に出会えて嬉しいと、舞で表現していく。
神殿とまわりの森の、ありとあらゆる植物が歓喜して、花が咲いていく。
精霊もそれに合わせて増えていった。
「ハツ…。」
息を呑む王太子が隣に立つ。いつもなら咎めていただろう。
そんなことは気にならないぐらい、見事な舞に見惚れた。
ヨキの舞も見事だったが、命が終わりゆくハツの舞は、ひらひらと舞う桜の花びらのように俺の心に積もっていく。
俺の神楽、俺の舞姫。
いてもたってもいられず、ハツと一緒に舞う。
『素晴らしい舞ね。見て、精霊も舞に参加したわ。』
すっと現れた光の神と火の神。悲しそうに愛おしいそうな顔で眺めている。
突然舞台に現れたコトハに驚きつつも、楽しそうに2人が舞い、精霊が舞に合わせてその周りを飛ぶ。
舞が佳境に入った時だった。
ざあと風が吹いたと思ったら、黒かった桜が一斉に花ひらく。
薄い桜色がコトノハの国中に咲き乱れ、民は一瞬言葉を失う。
みごとに咲き誇る桜を目の当たりにして、国が感動の吐息で揺れた。
するとどうだろう、ゆらゆら揺れていた「濁り」までも歓喜に当てられて消えていった。
後の世で『カイ王の桜伝説』と呼ばれるようになる。
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