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王太子
側近のヤギがだるそうに王太子の部屋へ入り、俺を睨みつけながら言い放つ。
「カイ様、明日は舞姫を選抜する日です。朝には必ず大広間にお越しください。」
王太子に対して、お前はいつも尊大な態度だよな。
言い終わると、舌打ちでも聞こえて来そうな顔をして退室。いつものことだ…
退屈な王太子としての帝王学を終えて、一息ついていた時だった。
本棚に有る「キノクニの舞」と題された、1冊の本をため息混じりに手に取る。
パラパラとページをめくり、「舞姫の選別」というページで手を止めた。
良い舞はこうだとか、姿勢や表情など選抜に必要な項目が並ぶ。
正直読んだってなんの事を書いているのか、さっぱり分からなかった。
俺には舞の良し悪しが理解できない、判断できないとキバ王に言ったが、
「今度の儀式で祝詞を唱えるのは、其方(そなた)であろう。一度お前が承諾したことだ。舞姫を選ばぬは許さぬ。」
と言われた。儀式で祝詞を唱える事は承諾したが、舞姫の選別なんて聞いてない。優れた舞姫なんて…
「はぁ…」
コトノハの国の勉強や剣術は少しは楽しかったが、貴族や王族の相手は苦手だった。
まして、舞姫の選抜に来る娘は皆、貴族か金持ちの息女だろう。
あわよくば次の王妃にと、目の色を変えてやって来きて、顔に笑顔を貼り付け笑っていない目で俺を見る。
他国からやってきた姫君たちも、大体同じような事しか言わない。父王のように愛のある結婚をしたいと思っていたが…叶わないのだろうな。どうせ俺の意志など無視するなら、適当に決めてくれればいいのにと思う。
跡継ぎさえできればいいのだから…健康で丈夫なら誰でもいいだろう。
王宮の客間は、他の国から勝手にやってきた姫君たちで覆い尽くされ、毎日のようにお茶会への招待状が届く。今は紙屑と一緒にくしゃくしゃになって、屑箱に収まっている。
キジに「また読みもせず、返事もしないでどうするんですか?」と睨まれる。これもいつものことだった。
王宮を歩けばギラギラした花々に囲まれて、どうでもいい質問が我先にと飛び交った。
不自由はしないが、自由ではない。あちこち縛られて、ただいろんなモノを食べさせられている、そんな日常だった。
夜は夜で、忍んでくる毒花をさけるように、剣を抱いて屋根の上で眠った。
舞姫選別の日。
周りの者は鼻の下を伸ばして口元を隠し、コソコソとなにかを話しながらやってくる乙女達を見ていた。
舞姫の選別に来ているのは王都に住む貴族の娘か、金持ちの娘たち。
目に痛い派手な衣装で登場した乙女たちが、こちらをチラチラ見ながら舞う。
俺でも身が入っていない舞ぐらいは分かる。神に捧げるための舞の筈。
俺が唱える祝詞の、邪魔にしかならいではないか。
この娘たちは、一体何をしに来たのか。儀式の失敗が目的なのか?
「父上!見る価値もありません。女神に捧げる舞を、舞える者のみに絞るべきです!」
持たされていた杯を床に叩きつけて、逃げるように場を去った。
自分の部屋に戻って大きなため息を1つ。
茶番に付き合わされたな…周りを見渡す。
今は舞姫選抜で、王宮にはほとんど誰もいない。慎重に見張りの様子を伺う。
隠していた粗末な衣類に着替え、長年かけて開けた抜け穴へ。
眉間によったシワがとれ、14歳に相応しい顔に変わり、城を抜け出した。
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