舞姫

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舞姫

0cc125aa-a9df-41b4-a6fe-8aa95e29a0df「遅いぞ!こっちだ!」 八百屋の屋根から友が呼ぶ。城を抜け出すようになってからできた、 平民の友だ。俺の素性も知っている、唯一なんでも話せる存在だった。 「と言いつつ、今日は遅めで正解だったな。」 重そうな水桶をぶら下げた天秤を、くるくると歌い舞いながらやってくる彼女。思惑が交錯した舞よりよっぽど彼女の舞の方が良い。澄んだ歌声が街に心地よく響き渡った。街の民も笑顔で彼女を見送る。 見なりは粗末だったが楽しそうに舞う姿を、屋根の上から友と一緒にじっと見る。 「そんなに気になるなら、王宮へ上げればいいのに。調べてやろうか?」 会う度に愚痴を言っていたのを、思っての言葉を友が口にする。 「…できる訳ないだろう。城なんかに彼女を入れれば、下手をしたら死ぬかもしれないんだ。」 金や権力しか興味がなく、足の引っ張り合いが日常の王宮に、彼女を入れたくなんかない。見せたくない… 彼女が舞姫なら…いや、ダメだ。 ギラギラした花々を思い出して、眉間にシワが寄る。 彼女は貧しく不自由だが…自由だ。俺で縛りたくない… いつまでこうやって彼女を、見ていられるだろう。 ひと月後には成人の儀を迎え、こやって市囲に出ることも、よりいっそう許されなくなる。 姿を目に焼き付けるように、見えなくなるまで彼女を見送った。
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