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猫に興味を引かれて僕は、昼休み、階段堤防に出てみた。釣り人は、狙いの獲物が釣れるとバケツに入れ、狙いでない小魚が釣れると猫に与えていた。その猫は、そんな小魚でも、うしゃうしゃと嬉しそうに食べていた。猫は真っ白だった。「にゃあ」と呼ぶと寄ってきた。人慣れしている。背中を撫でるとごつごつとしていた。野良生活の厳しさが体つきに現れている。尻尾は長くクランク状に折れている。お尻を見ると玉はない。雌だ。野良でこんなに人なつこい猫は珍しい。釣り人達と交流があるからだろう。
「ごめんよ。僕は食べ物を持っていないんだ」
その猫は瞳の色が変わっていた。右がブルー、左が茶色のオッド・アイ。瞳の色が左右で違うので、僕はその猫を「チガ子」と呼ぶことにした。
……
翌日の昼休み、僕は弁当からマグロの角煮を食べ残しておいて、階段堤防に向かった。
いつものようにそこには、静かに波の寄せる相模灘が広がっていた。高齢の釣り人が時折、沖に向けて仕掛けを投げていた。
「チガ子」
呼んでみると、どこからともなくチガ子がやって来た。僕の声を覚えてくれたようだ。
僕は階段堤防に腰を下ろし弁当箱を開いた。
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